アストン マーティンのキー・エレメントについて F1鈴鹿を前に、チーフデザイナーが語り尽くした

公開 : 2023.11.05 19:35

時間を超えた美を宿すデザインとしての黄金比

ラゴンダの世界観に則るがゆえ、ラインナップの中であえてラピードの話題だけ触れられなかったが、アストン マーティンのデザイン哲学として、ライヒマン氏は3つのキーワードを挙げた。

「まずObsession(オブセッション、執念の意)ラストmmのこだわりが、良いから優れたものへ、最後に追い込ませるものです。次にprecision(プレシジョン、精度の意)ヴァルキリーのようなエクストリームなモデルは無論、すべてのシャシーでデザイナーとして精度にはこだわりたい。そしてもうひとつは、presence(プレゼンス、存在感の意)です。素材がそうですが、ウッドに見えるものはウッドでなければならず、カーボンやアルミも同じ。マインドの中では永続する素材であるという、マテリアルの誠実さです。

アストン マーティンのキー・エレメントについて F1鈴鹿を前に、チーフデザイナーが語り尽くした
アストン マーティンのキー・エレメントについて F1鈴鹿を前に、チーフデザイナーが語り尽くした    アストン マーティン

アストン マーティンのバッジもそう。プラスチックではなく、伝統的な方法で作られた七宝で、メタルのべースにガラスとエナメルという本物の素材で出来ていて、何百年も永続します」

時間を超えた美を宿すデザインとして、ライヒマン氏は黄金比に強いこだわりをみせる。「偉大なデザインの基礎には、黄金比によるプロポーションがあります。例えばバイオリンは音を出すためのデザインですが、ストリングの長さが音のために決まっていて、結果的に黄金比になっている。

アストン マーティンの車でいいますと、ダッシュボード隔壁から車軸までの長さが大事です。前輪がリア寄りに配されると美しさがスポイルされます。上下の黄金比もホイールリムから決まってきますし、上アングルから見たキャビンの水滴型や乗員の頭部の位置、ホイール面とピラーのオフセットも、デザイナーは考えています」

AIはあくまでツールであり、人間の手によるスケッチとクレイモデルを重視する一方、日本のたたら製鉄のように、折り返して強度を挙げたカーボンを3Dプリンタで切削するなど、最新の軽量化素材や加工技術にも興味は尽きないとか。

「完璧の追求は、決して終わらない旅である」そんな英国の老舗GTに、じつに似つかわしいエピグラフでもって、ライヒマン氏はプレゼンを締めたのだった。

記事に関わった人々

  • 執筆

    南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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