なぜ電気自動車は高い? 安くすることはできないのか 専門家に聞いてみた
公開 : 2023.11.10 18:05
・EV(電気自動車)購入をためらう理由の1つは価格の高さにある。
・なぜ高いのか? 安く作ることは可能? 2人の専門家に話を聞いた。
・メーカーは利益を出せない。充電インフラも鍵となる。
メーカーも利益出せない
EV(電気自動車)の購入をためらっている人、あるいは購入をまったく考えていない人に、その理由を尋ねたとき、予想される答えの1つは販売価格の高さだ。
ほぼ例外なく、EVはエンジン車よりもかなり高価であり(特に航続距離が400km以上のEVの場合)、多くの人にとって気軽に手を出せる買い物ではない。では、より多くの人がEVを購入できるようにするには何が必要なのだろうか? そもそも、そんなことは可能なのだろうか?
商品の値段について知るためには、まずそれを作るのにいくらかかるのかを知る必要がある。日産自動車のCOO(最高執行責任者)で、初代リーフの市場投入を指揮し、同社のEVおよびバッテリー事業の責任者を務めたアンディ・パーマー氏は次のように語る。
「発売時点で、販売原価はメーカー希望小売価格よりも高かった。つまり、単に諸経費を賄えていなかっただけではありません。材料費すらカバーできていなかったのです」
当時、日産がリーフをロスリーダー方式(採算度外視で安い価格を設定すること)で発売したのは、トヨタがハイブリッド車の初代プリウスを発売したときと同じような戦略的決断だった。
しかし、EVはハイブリッド車よりもはるかに大きなバッテリーを搭載しているため、価格に対する影響力も大きい。「当時は容量1kWhあたり1000ドルほどだったバッテリーは、今では150ドルほどにまで下がっています」とパーマー氏。
「あるEVで、60kWhのバッテリーが必要だと仮定すると、バッテリーパックだけで9000ドルかかることになります。これにメーカーの諸経費と15%の販売店マージンを加えると、コストは約4万1500ドル(約620万円)に跳ね上がる」
「そのため、1kWhあたり1000ドルから150ドルへと10年カーブを下った後でも、メーカーには利益がないのです」
パーマー氏は、このコストは今後も下がり続け、一般的なバッテリーの場合、1kWhあたり80ドル程度まで下がる可能性があると見ている。だが、下落のスピードは鈍化しており、あと2~3年で実現するようなものではない。
「キモ」はバッテリーの小型化
AUTOCAR英国編集部は最近、ポッドキャスト『My Week In Cars』のライブ収録で、EVの普及についてパーマー氏に話を聞いた。
手頃な価格のEVを実現するもう1つの方法は、単純にバッテリーを小型化することだ。パーマー氏によれば、24kWhのバッテリー(初代リーフのサイズ)を1kWhあたり150ドルで搭載すれば、メーカーが損をすることなく、市場投入コストを2万ドル程度に抑えられるという。
「手頃な価格のEVに向けた解決策は、必ずしも技術の成熟を待つことでも、化学と戦うことでもありません。単純にバッテリーを小さくすることです。しかし、バッテリーを小型化するためには充電インフラが必要であり、それが鍵になります」
「家庭用充電器も含めたまともな充電ネットワークには、おそらく1500万か所ほどの充電ポイントが必要で、今のところそうなるにはほど遠い。効果的なインフラを早急に整備しない限り、人々が自然にEVに移行することはないでしょう。人々は航続距離への不安を訴え続けるでしょうし、その考え方を変えることはできないと思います。ユビキタスネットワーク(いつ、どこでも繋がるネットワーク)ができれば、いつでも充電器を使えることがわかり、航続距離をそれほど気にしなくなる。そうなれば、小さなバッテリーも受け入れられるようになります。そこが転換点です」
パーマー氏は、バッテリー技術の向上もコスト削減に一役買っているとし、その一例として、ニッケル・マンガン・コバルト(NMC)からリン酸鉄リチウム(LFP)への移行を挙げている。
その他にも、環境負荷が低く持続可能なナトリウムイオンや、半固体、全固体などがある。しかし、「固体電池にはまだコストがかかる」とパーマー氏は指摘する。技術的な改善も効率を高め、バッテリーの小型化につながるだろう。
「可能な限りの冷却が重要です。最も温度の低いセルと最も温度の高いセルの間の温度差を1度以内に保つことで、セルの劣化を防げます。また、バッテリーパックと電子機器の統合も重要です。これらを一体化させれば、バッテリーをより効率的に、つまりより安くすることができる。しかし最終的には、小型バッテリーを可能にするネットワークが普及することで、大きな動きが生まれるのです」