なぜ電気自動車は高い? 安くすることはできないのか 専門家に聞いてみた

公開 : 2023.11.10 18:05

総所有コストは安いのか

英国ウォーリック大学傘下の研究機関WMG(Warwick Manufacturing Group)の先進推進システム専門家、デビッド・グリーンウッド氏は、EVのコストには購入価格以上のものがあると説明する。

「コストについて話すとき、それは何を指しているのでしょうか? 購入コストだけでしょうか? 生涯コストでしょうか? 車両設計といった側面もコストに関係しますが、充電インフラも同様です。バッテリーをもっと安く作れるかどうかも問題ですが、それは一連の流れの中で一番最後です」

「必要以上にバッテリー容量の大きいEVを買わないこと」が重要だとデビッド・グリーンウッド氏は言う。
「必要以上にバッテリー容量の大きいEVを買わないこと」が重要だとデビッド・グリーンウッド氏は言う。

EVの場合、総所有コストは間違いなく従来のクルマよりも重要だ、とグリーンウッド氏は言う。「EVを “正しく” 購入する人、つまりそのEVの能力を最大限に活用する人にとって、総所有コストは大きな問題ではありません」

「プロバイダーから料金プランをうまく選び、購入したエネルギーをクルマのバッテリーに蓄える、といった点に気をつければ、総所有コストは少なくともガソリン車やディーゼル車と同等になります。課題は初期費用が大きいことですが、その後のランニングコストはかなり低く抑えられます」

初期費用の軽減にはリースやPCP(個人向けリース)のような購入形態が有効で、「燃料代」と整備費用の安さと合わせると、「全体としては、まだ勝っているはずです」とグリーンウッド氏は主張する。

「しかし重要なのは、必要以上にバッテリー容量の大きいEVを買わないことです。800km走行可能なクルマに大金を費やしても、1日に15kmしか走らないのであれば、それを賄えるだけの燃料代を節約することはできません」

「消費者は、従来よりも少し下調べをする必要があるということです」

インフラ整備で低価格化を

グリーンウッド氏はまた、購入価格を下げるために充電インフラの重要性を強調している。

「航続距離が比較的長いEVを購入する理由の1つは、充電インフラが2030年に求められるレベルまで発達していないことと、充電に時間がかかることです」

適切な充電インフラの整備が、低価格EVの実現につながるかもしれない。
適切な充電インフラの整備が、低価格EVの実現につながるかもしれない。

「充電時間が短くなれば、充電のために途中で止まる心配も減る。充電インフラがより強力になり、普及すれば、消費者はバッテリーの小さいクルマを買うことに抵抗がなくなり、結果として安いクルマを買うようになると思います」

「多くの場合、実航続距離240kmのクルマを買っても問題ないと思います。英国運輸省の統計によれば、これは移動の99%をカバーしており、残りの1~2%は途中で充電のために停車することを受け入れているようです」

グリーンウッド氏は、前払いで利用時間を指定し、ナンバープレートで車両を認識するという充電器の予約システムを推している。

「充電器メーカーと話をしたことがありますが、このアイデアを非常に気に入っています。というのも、理想的な充電器の設置数は、必要な数に予備を1つ加えた数だからです」

「わたしが言いたいのは、充電インフラ投資と車両価格の間には直接的な関係があるということです。航続距離480kmのバッテリーを必要とするクルマから240kmのクルマに移行する場合、部品代を約25%削減できることになります」

これからのクルマとの付き合い方

欧州の規制には適合していないものの、実質100万円以下の都市型軽量実用車という中国のEVは、今後注目すべきコンセプトである。

バッテリー技術は今後も進化し続けるだろう、とグリーンウッド氏は言う。「これまでのEVのほとんどは、航続距離を伸ばすことを目指してきた。インフラを整えれば、より安価なリン酸鉄リチウムを使ったバッテリーをパッケージ化することができますし、いつの日か、より低コストのナトリウムイオンに取って代わられると思います」

中国では小型軽量のEVが数多く販売されている。
中国では小型軽量のEVが数多く販売されている。

まだ先の話だが、ナトリウムイオンは環境への負荷も低いとされる。材料のナトリウムが豊富であるだけでなく、銅やコバルトを必要とせず、電解液もシンプルである。

しかし、手頃なEVへの移行には、技術的な進化以上のものが必要だということは明白である。わたし達とクルマとの関係、わたし達の選択、そしてわたし達のクルマの使い方も変わる必要があるかもしれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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