当時は惨めな小型車だった ダラック10/12HP スパイカー12/16HP ベテランカー・ランの功績車(2)

公開 : 2023.11.19 17:46

120年近く昔とは思えないほど走りは洗練

足元には、2枚のフロアヒンジ・ペダルが並ぶ。左側がマルチプレート・クラッチの切り離しで、右側がトランスミッション側に組まれたブレーキ。ウッドリムのステアリングホイール上には、点火タイミングとスロットルのレバーが2本伸びる。

直進時は問題ないものの、レバーはステアリングホイールと一緒に回る。旋回時は、ポジションを思い出しながら操作する必要がある。

スパイカー12/16HP ダブルフェートン(1904〜1907年)
スパイカー12/16HP ダブルフェートン(1904〜1907年)

ボディの外側で突き出ている、長いシフトレバーを1ノッチ右手前方へ倒し、1速を選択。エンストしないようにエンジンを軽く吹かし、クラッチを滑らかに繋げば、スパイカーは走り始める。

120年近く昔のクルマとは思えないほど、走りは洗練されている。ステアリングレシオが高く、腕には力が必要なものの、遊びは殆どない。4気筒エンジンはトルクが太く、最小限の回転数でもボディを前進させる。

丁寧にダブルクラッチを踏んで、シフトレバーを1ノッチ奥へ倒して2速へ。スロットルレバーを調整する必要はない。現代的なクルマとは異なるプロセスだが、直感的に理解しやすい。

速度を落とすには、ブレーキペダルと、ハンドブレーキ・レバーを上手に操る必要がある。ある程度の力も必要で、短時間では慣れない。

当時は少々惨めな小型車だった

通称ジュヌヴィエーヴことダラックは、正直なところ当時のモデルと比較しても技術的には遅れていた。ベテランカー・クラブ会長を務めていたジョン・ミッチェル氏は、映画による功績を認めつつ、当時は少々惨めな小型車だっただろうと話している。

クランクハンドルを回すと、スパイカーのように1発始動。2365cc直列2気筒エンジンの振動に合わせて、ボディのあちこちが共振する。フロントガラスはそもそもなく、着座位置は周囲を見下ろせるほど高い。

ダラック10/12HP ジュヌヴィエーヴ(1904年)
ダラック10/12HP ジュヌヴィエーヴ(1904年)

バルクヘッド上のオイルリザーバー・プランジャーを数回動かし、潤滑させて発進。足元には、現代的なモデルと同じくペダルが3枚並ぶ。クラッチペダルとブレーキの間に、ステアリングコラムが伸びている。

トランスミッションは3速マニュアル。シフトレバーは、ウッドリムのステアリングホイールの下から伸び、点火タイミングのレバーと場所を分け合っている。スパイカーとは、異なる運転技術が求められる。

ニュートラルから1ノッチ上げるとリバース。手前側へ1ノッチづつ倒すと、1速づつシフトアップしていく。タッチは曖昧で、注意力が求められる。

クラッチはレザー張りのコーン・タイプで、劣化を抑えるにはデリケートな左足の操作が欠かせない。繋がりは唐突で、不慣れなドライバーがMT車を運転する時のように、発進時に強い揺れを伴う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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