運命かえた名車、一堂に エンツォ・フェラーリ博物館企画展「ゲームチェンジャーズ」

公開 : 2023.11.08 21:05

フェラーリ 最新の挑戦

第2は、フェラーリは常に「らしくない」を投げかけてきたことだ。

今回の企画展で「初めて」を特集した理由がわかる瞬間は、最後の展示車が2022年「プロサングエ」であることを知ったときだ。車両脇に添えられた解説板には「4つのドアと、4つの快適なシートという斬新さ」と記されている。

2022年プロサングエ
2022年プロサングエ    大矢麻里

そしてこう続けられている。「新型車には常に最先端の研究を結集してきました。特にプロサングエについては、企業の「良心」も要約されており、フェラーリ製グラン・トゥーリズモの進化に関するすべての知識、つまりプレステージ・モデルとしてのデザイン、空力、メカニズム、パフォーマンス、ドライビングプレジャーが絶対的なものとし集約されています」

読者諸氏もご存じのように、プロサングエはデビュー直後から、ファンだけでなく専門家の間でも賛否両論が戦わされてきた。だが、かつて1976年にフェラーリ初のAT車「400オートマティック」が登場したとき、それなりのインパクトをエンスージァストに与えた。1989年に電子/油圧制御式セミオートマティックをF1マシンに初搭載したときも当初はおおいに疑問視されたものだ。

しかし今日、すでに市販フェラーリが全車ATとなって早10年以上が経過した。F1のギアボックスもセミATがデフォルトである。

それら2つの事実と照らし合わせると、フェラーリがプロサングエで新カテゴリーに挑んだのも、けっして突飛なことではないのである。参考までにデザイン的観点から述べれば、その曲面処理は極めてダイナミックで、そこから醸し出されるリフレクションは限りなく繊細だ。皮肉に富んだ人がたびたび囁く「マツダ製SUVのように見える」というのは、明らかな的外れである。

会場の一角にはエンツォの言葉が紹介されている。La migliore Ferrari che sia mai stata cortruita e la prossima(今まで造ったことがない最高のフェラーリは、次に登場するモデルだ)。

我々がこの言葉をいつまでも信じられるように、マラネッロのエンジニアやデザイナーたちには奮闘してほしいものだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    大矢アキオ

    Akio Lorenzo OYA

    在イタリアジャーナリスト。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で比較芸術学を修める。イタリア中部シエナ在住。今思えば最初に覚えたイタリア語は「ルーチェ」「カリーナ」「クオーレ」、フランス語は「シャルマン」と絶版車名ばかり。NHK語学テキストに長年執筆。NHK「ラジオ深夜便」にも出演中。「シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザインの軌跡」(三樹書房)をはじめ著書訳書多数。

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