2台分のガレージが欲しくなる フィアット・ヌォーヴァ500 EV ロンドンの中心で体験(2)

公開 : 2023.11.25 17:46

信頼性を高め、性能を向上させる手段の1つ

前例がないモデルのエレクトロモッドには、10万ポンド(約1810万円)は必要になるようだ。ミニやランドローバーなど、既に経験があるモデルなら、3万ポンド(約543万円)台で可能らしい。

最近は、車検の規制も厳しくなっているという。「エレクトロモッドでは、シャシーやモノコックを一切変更しないよう、注意しています。古いナンバープレートが無効になり、年式などが不詳のQナンバーで再登録することになるんです」

ロンドン・エレクトリック・カーズ社のマシュー・クイッター氏
ロンドン・エレクトリック・カーズ社のマシュー・クイッター氏

「かつては、クラシックカーの冒涜だという人が殆どでした」。とマシューは苦笑いする。「オリジナルの状態へ戻せるよう配慮しています。また、丁寧なレストアを経て電動化されることが殆どですよ」

彼は、クラシックカーの信頼性を高め、性能を向上させる手段の1つに過ぎないとも話す。「受け止め方次第です。ステアリングホイールを交換しただけで、否定するマニアもいますからね」

ウォータールー駅を背にし、西のモートレイクへ戻る。南の環状線をチョイスしたが、ここでは乗り心地が試される。車重が増えたおかげで、本来の跳ねるような挙動は鎮められている。

サスペンションのストロークは短く、タイヤは小さい。荒れた路面を受け入れる能力は、基本的に高くない。マンホールやアスファルトの剥がれた穴では、背骨が痛くなるような振動が生じる。幅の狭いボディを活かし、避けるのが得策だ。

EVも収まる2台分のガレージが必要

数時間運転する内に、エレクトロモッドによる新鮮さは薄れてしまった。扱いやすく、静かで、気兼ねなく乗れるヌォーヴァ500だということへ意識が変化していく。

オリジナルの空冷2気筒エンジンは、多くのオーナーにとって悩みのタネになりがち。ヌォーヴァ500は、エレクトロモッドのベースとして理想的なモデルに思える。

クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)
クラシック・クローム・フィアット・ヌォーヴァ500 EV(英国仕様)

日常的な走行距離の短さを考えると、都市部での利用が中心のコンパクトカーは特に理に適っている。ロンドンの西から東への往復で消費した駆動用バッテリーの容量は、25%程。撮影のために、だいぶウロウロしたのだが。

もし、自身のガレージに停まる唯一のクラシックカーが電動化されていたら、刺激的で歴史的な自動車を運転するという、欲求を満たすことはないだろう。しかし、市民に愛されてきた古い量産車なら、エコな移動手段として普段使いしたいと思える。

ガソリン価格は更に上昇し、給油できるスタンドの数は減っていくはず。それでも筆者の理想としては、ガソリンエンジンを積んだクラシックカーを、ガレージに収めておきたい。その横には、日常の足としてバッテリーEVも並べたい。

つまり、2台分のガレージが必要になりそうだ。まず解決すべきは、これかもしれない。

撮影:ジャック・ハリソン
協力:クラシック・クローム社、ピーター・ブラッドフィールド社、ロンドン・エレクトリック・カーズ社

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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