クライスラー・イプシロン・プラチナ
公開 : 2012.12.26 17:22 更新 : 2017.05.29 18:32
初代も2代目もかなり個性的なスタイリングを持ち、強い存在感を放っていたが、こんもりと背が高くなった3代目ももちろん基本路線は同じ。他に似る者がないプレミアムなスタイリングである。リヤのドアハンドルを巧妙に隠すことで、アルファ156風に2ドアスタイルを装っているが、実際の後席スペースは2+2シーター風のミニマムなものとなっている。だが今回試乗したイプシロン・プラチナの場合レザーとファブリックがコンビになったシート表皮や、立体感溢れるダッシュまわりの造形など、さすが小さな高級車といった出来栄えになっている。フロントシートを含むドライビング環境はしっかりと確保されており、フットスペースも奥深いので身長が高いドライバーでも自然なドライビングポジションを確保できる。
金属製のイグニッションキーをステアリングコラム横の鍵穴に差し込んでエンジンを掛ける儀式は、ちょっと高級車らしくないように思えるけれど、しかしエンジンをかけるとさらに高級車らしからぬ事態が待っていた。フィアット500ベースのシャシーに搭載される小さなエンジン、といえば察しの良い読者ならお分かりの通り、ニュー・イプシロンの鼻先には875ccのツインエア・エンジンが搭載されているのである。とくれば、ギヤボックスももちろんフィアット500と同じ5段のデュアロジックが組み合わされる。
アイドリング時から明らかな異物感を伝えてくるツインエア・ユニットは、はっきりいってイプシロンの都会的な室内空間には不釣合いであり、交差点でアイドリングストップが作動するとその度にホッとさせられた。フィアット500であれば、そのレトロなスタイリングと相まって納得できるのだが……。走りはじめてからもエンジンの印象は変わらず、しかも低速時にはフィアット500のツインエアよりも少しもっさりとした身のこなしが気になった。プラチナにチョイスされている195/45R16という太めのタイヤと、フィアット500ツインエア比で大人ひとり分ほど重い車重が、イプシロンの走りの軽快さを削いでいるように思えた。
クライスラー・イプシロンの白眉はハイペースで飛ばした場合のコーナリングとブレーキの安定感の高さだった。ハイペースでコーナーに進入した際の座りの良さには前出の195サイズのタイヤが効果を発揮しているようで、またブレーキもペダルのタッチもこのクラスとしてはかなり硬質な部類に入り制動力も高い。日本仕様のイプシロンは右ハンドルのみだがブレーキマスターは助手席の前方に付いている。このためブレーキペダルを覗き込むと、鋼鉄製の太いロッドがブレーキペダルの根元から助手席側の足元に向かって伸びているという小型FF車にありがちな強引な設計になっているのだが、しかしブレーキの感触はとてもいいのだ。
イタリア人のようにいつでもぶっ飛ばして走る(というのは古い感覚だろうか?)のであれば、このイプシロンは確かに秀作といえる。しかし都内でお洒落なシティコミューターとして用いるのであれば、もう少ししっとりと回るエンジンと、細めのタイヤを組み合わせたいところである。
(文・吉田拓生 写真・佐藤靖彦)
クライスラー・イプシロン・プラチナ
価格 | 260.0万円 |
0-100km/h | 11.9秒 |
最高速度 | 176km/h |
燃費 | 23.8km/ℓ |
CO₂排出量 | 97g/km |
車両重量 | 1090kg |
エンジン形式 | 直2DOHCターボ, 875cc |
エンジン配置 | フロント横置き |
駆動方式 | 前輪駆動 |
最高出力 | 85ps/5500rpm |
最大トルク | 14.8kg-m/2000rpm |
馬力荷重比 | 78ps/t |
比出力 | 97ps/ℓ |
圧縮比 | 10.0:1 |
変速機 | 5段自動M/T |
全長 | 3835mm |
全幅 | 1675mm |
全高 | 1520mm |
ホイールベース | 2390mm |
燃料タンク容量 | 40ℓ |
荷室容量 | 245ℓ |
サスペンション | (前)マクファーソン・ストラット |
(後)トーションビーム | |
ブレーキ | (前) φ257mmVディスク |
(後) φ203mmドラム | |
タイヤ | 195/45R16 |