悪臭と炎の町に生まれた新工場 e-ベルランゴ/コンボ Eで再生 ステランティスのEV拠点

公開 : 2023.11.23 19:05

1964年から稼働してきたヴォグゾール・エルズミアポート工場 ステランティス・グループ傘下になりEV工場へ一新 英国編集部が生産ラインへ潜入

1年半と1億ポンド(約181億円)で再構築

グレートブリテン島の中西部、リバプールの少し南に、エルズミアポートという町がある。高速道路からは大きな製油所が見えるが、その横で新しいバッテリーEVが生み出され始めている。

ここには、1964年から稼働してきた英国オペルヴォグゾールの工場がある。2022年4月に操業は一時停止していたが、1年半と1億ポンド(約181億円)が費やされ、ステランティス・グループによる電動バンの生産ラインが整えられた。

ヴォグゾール(オペル)・コンボ・エレクトリック LH1(英国仕様)
ヴォグゾール(オペル)・コンボ・エレクトリック LH1(英国仕様)

筆者はこの地域へ頻繁に訪れてきたから、製油所が放出する悪臭と余剰ガスが燃える炎には慣れている。だが、この周辺で暮らす人は気持ちが優しく、意欲的に仕事をこなす気概の持ち主だということも理解している。

「オペル・アストラの生産終了が迫り、われわれには未来がないと考えていました。しかし、諦めませんでした」。工場長のダイアン・ミラー氏が、2021年を振り返る。

「弊社のスタッフや、サプライヤーに勤める友人の安定した雇用を希望してきました。周辺でのリストラを、目の当たりにしてきましたから」

工場側の打診により、ステランティス・グループのCEO、カルロス・タバレス氏がエルズミアポートを訪問。ここで生み出されるクルマの品質と、人々の熱意に触れ、新世代のバッテリーEVの製造も任せられると判断された。

2021年7月には、英国政府の協力も取り付け、新たな投資が決まったことが工場へ伝えられた。同グループ初となる、バッテリーEV専用工場への再構築が始まった。

組み立てエリアは一新 量産準備は万端

かくして、シトロエンe-ベルランゴプジョーeパートナー、ヴォグゾール・コンボ・エレクトリックの生産拠点が完成。筆者が訪れたときは、約1000名のスタッフが、正式な量産を開始する直前だった。

生産ラインへお邪魔したタイミングで、489台目のコンボ・エレクトリックがラインオフ。完成検査を経て、先行生産の車両だと理解する顧客へ届けられるという。ユーザーからは、品質向上のためのフィードバックが寄せられるはず。

ステランティス・グループのシトロエンe-ベルランゴやプジョーeパートナー、ヴォグゾール・コンボ・エレクトリックが生産される、英国のエルズミアポート工場
ステランティス・グループのシトロエンe-ベルランゴやプジョーeパートナー、ヴォグゾール・コンボ・エレクトリックが生産される、英国のエルズミアポート工場

「前向きな気分です」。エルズミアポート工場で25年間働く、品質管理部門のピート・モート氏が笑顔を見せる。「数か月をかけて、飛躍的にスキルを高めて来ました。組み立てのリズムに合わせて、すべてを自然にこなせるように、一定の生産量が必要です」

モートは、ステランティス・グループの社風が気に入っているという。「マネージャーは、目標水準に達しているか定期的にチェックしますが、ある程度の自主性も認めてくれています。努力する責任も与えられているんです。量産に向けた準備は万端です」

力強い握手で迎えてくれた、シフトマネージャーのスティーブ・ジェブ氏が生産ラインを案内する。「組み立てエリアは一新され、コンパクトで高効率になりました。各ラインが、他のラインと連携しています」

「ボディを持ち上げて、ドライブトレインを下から取り付けるための、クレドール型のモノレール・ラインも整備されました。バンパーは、新しい射出成形機で作られます。プレス・ラインは、ボディの製造で忙しいようです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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