未来の「ドライバーズカー」 EVはつまらない乗り物なのか クルマ好きの期待

公開 : 2023.11.13 18:05

・EVシフトは「運転の楽しさ」に終止符を打つのか。
・英国記者は危機ではなくチャンスと見ている。
・未来のドライバーズカーに期待できることとは。

EVシフトは「運転の楽しさ」を奪うのか

大きくて重いクルマであろうと、小さくて軽いオープンカーであろうと、いくつかの特徴を併せ持っていれば「ドライバーズカー」と呼ぶことができる。

その特徴というのは、1世紀前に英国でAUTOCAR誌が初めてレビューを書き始めて以来、ロードテスターたちが全力で解明してきたものだ。

英国編集部のジェシ・クロス記者は、EVシフトは危機ではなくチャンスと見ている。
英国編集部のジェシ・クロス記者は、EVシフトは危機ではなくチャンスと見ている。

優れたパフォーマンスも重要だが、パワーや加速がすべてではなく、フィードバック、応答性、アジリティ(敏捷性)、乗り心地、ボディコントロール、グリップ、バランス、姿勢、ドライビングポジションなど、ドライバーを魅了し、心地よい気分にさせるものすべてが重要なのだ。

メルセデス・ベンツが最初に車輪を転がしてから130年あまりの間に、わたし達は技術の大変化を目の当たりにしてきた。では、ドライバーズカーはどうなるのか? 20年後、30年後に運転する楽しみはあるのだろうか? 今、手元にあるものから考えてみるのが一番だろう。

モーター、ミッション、音

電気モーターは、内燃エンジンが発明されて以来、エンジニアたちが実現しようとしてきた特性、すなわち低回転からの大きなトルク、パワー、効率、洗練性をすべて備えている。現代のEV(電気自動車)のACモーターは、そのすべてを一見何の努力もなしに実現しており、どのようなクルマにとっても最適なパワーユニットとなっている。

比較的シンプルなため、初期のモータースポーツ界にとっては魅力的なものだったが、当時は動力源として十分な電力を蓄えることが困難だった。コストと重量が絡んでくる現代でも、同じ問題が多少なりとも当てはまる。しかし、バッテリー技術の急速な進歩により、30年後もそうである可能性は低い。

レクサスとトヨタはEV用マニュアル・トランスミッションを開発している。
レクサストヨタはEV用マニュアル・トランスミッションを開発している。

トランスミッションのタイプは移り変わる。マニュアルはオートメイテッド・マニュアルに大きく取って代わられ、その後デュアルクラッチ・オートマチックなどが登場したが、多くの走り好きのドライバーにとって、3ペダルとスティックへの憧れは薄れることはなかった。

レクサスは、EVの運転を楽しいものにするという課題に取り組みながら、EVドライバーに内燃エンジン搭載のマニュアル車を運転しているような体験をしてもらうために、「ギミック」のクラッチペダル付きEV用マニュアル・トランスミッションを開発している。気の利いたことにこのマニュアル・トランスミッションは、ギアチェンジのタイミングを誤ったときの駆動系のショックまで再現している。

レクサスのアイデアは面白いが、最終的には消えていくだろう。わたし達に残るのは、次世代の技術が与えてくれるベストのものになるだろう。

EVはもともと静かであり、ほとんどの場合、音は重要な考慮事項ではないが、モーターが自然に発する音を利用する余地はあり、電動スポーツカーメーカーは積極的に取り入れるかもしれない。1990年代のF1レーシングカーやTTレーサーバイクのような、超高回転エンジンの音に似たものが実現される可能性も十分にある。

モーターにできて、内燃エンジンにできないことの1つが、車輪の中に入れることだ。バネ下重量の大幅な増加といった課題はあるが、軽量化技術やバッテリーの車体構造への統合(すでに実現しつつある)により、設計者はエンジンや駆動系、燃料系が課してきた制約から解放されるだろう。パフォーマンスカー、特にスポーツカーにとっては、あらゆるデザインの可能性が広がる。

最大の疑問点は、数十年後にどのようなエネルギー貯蔵が可能になるかということだ。なぜなら、それはパフォーマンスカーにとって最も重要な要素である重量に大きな影響を与えるからだ。全固体電池は時代を先取りした技術となっており、いつ実用化されるのか具体的な兆候はまだない。実現されれば、従来の液体電解質に取って代わり、バッテリーをより安全で、より軽く、より強力で、より速く充電できるようにしてくれるだろう。

少なくとも最初の10年は、他のバッテリー技術よりも高価になるだろうが、スーパーカーメーカーは利用する可能性が高い。彼らは軽量コンパクトなパッケージで大量のエネルギーを必要とし、そのための予算も持っている。ホットハッチのような比較的性能の低いクルマ(いずれにせよ高価)もそれに続くだろう。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジェシ・クロス

    Jesse Crosse

    英国編集部テクニカル・ディレクター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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