むやみに触れない方が良い ランドローバー SASローバー ミネルバ・ブラインド 特殊部隊のシリーズ1(1)

公開 : 2023.11.26 17:45

前後に機関銃を装備 サスペンションは強化

3名の乗員が長時間の作戦を実行するのに最適化されたプロトタイプは、1957年2月12日に、戦闘車両の研究開発機関で披露。農場で働くシリーズ1とは、まるで異なる見た目に仕上がっていた。

助手席に座るのは指揮官で、2丁のヴィッカース AKオブザーバー自動機関銃を操った。後部座席には、手榴弾やロケットランチャー、重機関銃など複数の武器が装備され、射撃手が陣取った。

ランドローバー・シリーズ1 4x4 ゼネラルサービス SASローバー Mk3(1954〜1957年/英国仕様)
ランドローバー・シリーズ1 4x4 ゼネラルサービス SASローバー Mk3(1954〜1957年/英国仕様)

運転手にも、フロントフェンダー脇のすぐに握れる位置へブレン軽機関銃を用意。各シートには、ナイフ用のホルダーも隠されている。むやみに、あちこちへ触れない方が良い。

車体側も、通常のシリーズ1とは違っていた。一般にディーラーへ並んだ86インチ・ホイールベースのシリーズ1の車重は1353kgだったのに対し、SASローバー Mk3は備品を実装した状態で2134kgと、かなり重かった。

合計8台の量産仕様では、88インチ・ホイールベースのシャシーが使用されている。だが、今回のプロトタイプは唯一、86インチのシャシーをベースにする。

サスペンションは、増えた重量へ対応するため強化。耐久性と攻撃性を高めるべく、ルーフまわりとフロントガラス、リアのベンチシートは撤去され、フロント中央のシートはリアの射撃手用シートへ転用された。

フロントフェンダー上には、スポットライトを追加。水用のジェリカンが、ヘッドライトの左右へ括られた。スペアタイヤは、フロントバンパーの上へ固定された。

52psの4気筒1997ccエンジンはそのまま

リア側には、牽引用のチェーンを追加。ボンネットを覆える迷彩ネットに無線機、大型サーチライトなどが射撃手を取り囲むように搭載された。ダッシュボード上には、太陽の位置で方角を掴む、サンコンパスが載った。

ところがランドローバーは、最高出力52psの直列4気筒1997ccエンジンには、まったく手を加えなかった。その結果、動力性能は大幅に悪化し、静止状態から64km/hへ到達するのに24.4秒を要した。タイヤとホイールも、ノーマルと変わりなかった。

ミネルバ・シリーズ1 4x4ブラインド・パラシュート偵察車(1952〜1953年/欧州仕様)
ミネルバ・シリーズ1 4×4ブラインド・パラシュート偵察車(1952〜1953年/欧州仕様)

完成したプロトタイプは、約6500kmを試験走行。部隊が望む性能は発揮したようだ。そこには約1610kmのクロスカントリーや、約1600kmのオフロード、約3000kmの一般道が含まれた。

他方、ベルギー陸軍から小型四輪駆動車を生産する任務を受けたミネルバが選んだのも、ランドローバー・シリーズ1だった。自社には目的に叶う車両を開発するリソースがなく、1951年にランドローバーとライセンス契約が結ばれている。

一般的な軍用小型車両として、80インチ・シャシーとエンジン、トランスミッションを利用しミネルバ・シリーズ1がノックダウン生産されたが、ボディはオリジナルと異なりアルミニウム製ではない。ミネルバ独自のスチール製が架装された。

わかりやすい見た目の違いは、直線基調のフロントフェンダー。丸いヘッドライトが突き出ている。ベルギーには湾曲したボディパネルを製造する設備がなく、この形状になったという。車重も150kg重くなった。

この続きは、ランドローバー SASローバー ミネルバ・ブラインド 特殊部隊のシリーズ1(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・ハックナル

    Simon Hucknall

    英国編集部ライター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

ランドローバー SASローバー ミネルバ・ブラインド 特殊部隊のシリーズ1の前後関係

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