ドライバーズカー選手権2014 / スポーツ・クーペ部門
公開 : 2014.11.07 23:57 更新 : 2017.05.29 19:50
熱気といえば、スーパーカーのようなルックスや、誰がなんと言おうとドラマティックなところなど、i8も負けてはいない。プラグ-イン・ハイブリッドを意味するeドライブのエンブレムはi8のルックスには少し似つかわしくないかもしれないが、少なくとも3気筒の発する音は、一般的なそれよりは2倍ほど勇ましいし、電気モーターを組み合わせれば凄まじい勢いで加速していく。
真横から見ればi8はミド・エンジンのスポーツカーに見えるし、実際の身のこなしもまさにそんな感じだ。旋回軸がシートからそう遠くない前方にあることも体感的に感じられる。ターンインの姿勢はとても良いし、発表直後のレポートとは対照にアンダーステアも問題視するほどではない。またコーナリングの限界速度でトレーリングさせれば、すんなりとオーバーステアの姿勢に移る。
この楽しさをスポイルするのはステアリング。スポーツ・モードにスイッチしない限り軽すぎるし、他の2台と比べると伝えてくれる情報量が少ないのだ。しかし足元はキャンバーの変化に素早く対応している。強くブレーキングした時のフィールも電子制御のおかげでニュートラルだし、効きに関しても言うまでもない。またかなりのペースで攻めた際も、メーターパネルのグラフィックは視認しやすかった。
サーキットの走行では、ブレーキング時に生じるエネルギーがバッテリーをリチャージするには限界があったが、数時間の断続的な使用でもバッテリーの回復は素早い方だ。フロント・ホイールへの動力供給を行う分には十分だし、BMWの目標とする、環境に左右されない一貫性のあるハンドリングもi8は例外ではない。
しかしながら満充電時や、ほとんど充電時になっている状態のみ可能なオーバーブーストはあまり頻繁に使えない。使おうと思えば、消費されたバッテリーが回復済みである必要があるし、もしくはプラグをさし込んでじっと待つ必要があるのだ。
しかしバンプを踏み越える際のしなやかなアシの動きを一度でも味わえば、そんなことは気にならなくなるかもしれない。エンジン音は聞くたびに驚かされるし(ミニと同じ3気筒とは思えない)、ダウン・シフト時のレーシーなブリッピングには、時にうっとりしてしまうほどだ。絶対的な速度はとても速いのに、エコを念頭に置く仕立てのお陰で、そう感じさせないのもi8の美点だ。
一般道を走らせれば、i8の魅力はさらに表面化する。2機のエンジンによる出力はとても力強いし、操舵もとてもシャープ。安定感あるライドマナーのお陰でもっと長い距離を走ってみたいと思うことだろう。ここでは先述のステアリングの欠点もあまり現れないし、インフォメーション・ディスプレイによる情報の表示の仕方も見ていて楽しい。”この完璧なる外来種は、サーキットよりも一般道の方がベターだが、どちらも一定の合格水準は軽くクリアしている” とテスターの一人が締めくくった。
i8はたくさんの魅力があるが、サーキットタイムは3台中もっとも遅かった。よりトラディショナルなM4は、i8に比べると非常にシンプルだが、過去のM3に比べると、ドリフト時のリアエンドが繊細さに欠ける。NAエンジンを持った歴代の功績をきちんと受け継ぐつもりならば、パワートレインの味付けを改め直したほうがいいだろう。
これに対して、ケイマンGTSのショートなギア・セッティングが浮き彫りになった時でも、このクルマを非難するテスターは誰一人としていなかった。3台の中でもっとも完成度が高く、もっとも満足できるドライバーズカーであることを、ここに断言する。”魅力的なコントロール、ビロードのようになめらかなパワートレイン、寛大な乗り心地は一般道やサーキットを問わず突出したレベルにある” と言うのがわれわれの最終見解だ。