乗用車で世界初の風洞実験 1930年代の最先端 ランチア・アプリリア 英国版中古車ガイド(1)
公開 : 2023.12.02 17:45
1930年代の先端技術を積極的に採用したアプリリア 風洞実験を経た世界初の公道用モデル 狭角V4エンジンにモノコック構造 英国編集部がご紹介
風洞実験を経た世界初の乗用車
ランチアを創業したヴィンチェンツォ・ランチア氏が直接的に関わった最後のモデルが、1936年のアプリリアだ。スタイリングは、1920年代のラムダも描き出した、バッティスタ・ファルチェット氏が担当。風洞実験を経た、世界初の乗用車といえた。
イタリア・トリノの実験では、空気抵抗を示すCd値は0.47と示された。約90年前は、前例がないほど滑らかに空気を受け流すボディだった。
流線型で、当時は突き出ていることが一般的だったリアの荷室も、ルーフラインから緩やかにカーブを描く。ドアはセンターピラー・レスで、観音開きを採用している。
1939年までのアプリリア・ファーストシリーズのエンジンは、半球形の燃焼室が与えられたバンク角19度の1352ccV型4気筒。ブレーキは油圧で動作し、アルミ製ドラムには冷却フィンが備わった。
1939年以降のアプリリア・セカンドシリーズには、新しい狭角V4エンジンが搭載されている。バンク角は17度へ更に狭まり、排気量は1486ccへ拡大された。
アプリリアのもう1つの特徴が、シャシーとボディが一体で成形されたモノコック構造。
全長は3962mmから4153mmとコンパクトながら、ホイールベースは2750mmから2850mmと長く、ボディの四隅にタイヤが配置されている。
サスペンションは洗練された独立懸架式で、運転した印象は今でも驚くほどモダン。辛口だったヴィンチェンツォ自身も、プロトタイプの試乗で感銘を受けたらしい。「なんと素晴らしいクルマなのだろう」。と、言葉を残したという。
優秀なサスとブレーキが支える楽しい走り
ランチアは、コーチビルド・ボディ用のプラットフォーム・シャシーも提供した。ホイールベースは、通常のアプリリアより約100mm長い。販売数の約3割を占めている。
当初は、カロッツエリアのスタビリメンティ・ファリーナ社によって、アプリリア・トランスフォーマビル・カブリオレが作られている。またランチアは、市場を問わず右ハンドル車にこだわった。左ハンドル車の存在は知られていない。
生産初期の英国仕様のアプリリアは、関税を小さく抑えるため、ボディトリムやバンパーを省いた状態でグレートブリテン島へ輸入された。内装は標準ではクロスだったが、レザー張りでもあった。
ルッソと呼ばれるラグジュアリー仕様には、ボディサイドのランニングボードのほか、時計と温度計、燃料計などのメーターが追加。ランチアの品質や技術に対するこだわりは細部まで抜かりなく、バンパーのラバーモールも先進的な機能といえた。
第二次大戦後の1949年まで生産されているが、戦後の英国では販売されていない。近年、クラシックカーとして流通する殆どは、オーストラリアから輸入されたもの。今回ご紹介する例も、10年前に南半球からやってきた。
アプリリアは、ランチアらしく運転が楽しい。好ましい乗り心地と操縦性は、優秀なサスペンションとブレーキが支えている。加速力も、今でも充分に力強く感じられる。