日本で電気自動車が普及しない理由 乗り遅れたのか、それとも… 英国人記者が考えてみた

公開 : 2023.11.16 18:05

・AUTOCAR英国編集部記者が日本のEV事情を考えてみた。
・現実的で実用主義の日本では小型車や軽自動車が売れる。
・EV普及に出遅れた? 本当のチャンスはこれからかも…。

EVに対する考え方の違い

日本の自動車メーカーは、常に自動車のデザインとテクノロジーの最先端にいるように見える。ただし、EV(電気自動車)は別だ。

世界最大の都市である東京の街角に立てば、EVを見つけることができるだろう。しかし、先ごろ開催されたジャパンモビリティショーでわたしは1週間ほど滞在したが、一度も見かけなかった。調査会社ジャトー・ダイナミクスのデータによれば、2016年から2021年にかけて国内で年間平均500万台以上の新車が販売されるなか、EVの販売台数は全体の0.4%から0.6%にとどまる。2022年に1.7%、今年(9月末まで)は2.3%まで増加したが、成長は微々たるもので、電動モビリティをサポートする明確な充電ネットワークもない。

日本でEVが普及しない理由をAUTOCAR英国編集部の記者が考える。
日本でEVが普及しない理由をAUTOCAR英国編集部の記者が考える。

日本は、自国が置かれているエネルギー事情がまったく異なるにもかかわらず、他の国々がそうだからといって、なぜ自分たちもEVにしなければならないのかと疑問に思っている。産地に関係なく、単に燃料の使用量を減らしたいだけなのだ。日本では、外気温が28度になるまでビルの空調をつけない企業もあるほど、エネルギーをできるだけ使わないことが重要視されている。

このことから、原材料の使用量や製造時のエネルギー消費量を大幅に増やすことなく、現実的に効率を向上させるハイブリッド車、そしてクルマだけでなく国全体の電源としての可能性を持つ水素が、日本にとって魅力的であることがわかる。

マツダのジェフリー・ガイトンCFO(最高財務責任者)は、「日本では、消費するエネルギーのほとんどが何らかの形で輸入されています。日本は他の多くの国よりも、炭素のライフサイクルをトータルに見ることに熱心です」と語る。

「水素やハイブリッド車は、より少ないエネルギーで、より柔軟に資源を利用するためのものです。カーボンニュートラルとはどのようなものなのか、異なる考え方をする能力があります。カーボンニュートラルであれば問題はなく、EVである必要はありません。環境目標をサポートするためにカーボンニュートラルであればいい。非常にプラグマティック(現実的)なのです」

効率的な小型車を選ぶ日本

欧州では、クルマからの排出量に基づいてEVを支持する法律が制定されている。これが解決策であると同時に目標でもあるというガイトン氏の見解は、欧州の立法者を声高に批判するステランティスのCEO、カルロス・タバレス氏の見解と重なる。タバレス氏は、2022年にフランスのエマニュエル・マクロン大統領と会食した後、立法者が「独断的で世間知らず」であることを知ったという。自動車業界にカーボンニュートラル目標を設定するだけではなく、そこに到達するために必要な手段、つまりクルマのゼロ・エミッションを設定したのである。

日本では電動車を支持する法律は存在せず、EVの普及は非常に遅れており、販売台数ではインドが大きく上回っている。日本は、日産リーフという世界初の量産型EVを生み出した国であるにもかかわらず、国内の消費者はEVを敬遠し、ハイブリッド車や軽自動車など、より効率的なクルマに目を向けてきた。欧州では、EVを含むさまざまな法規制が業界を圧迫しており、自動車メーカーにとって生産コストが不経済であるため、シティカー(超小型車)は事実上消滅している。

日産は世界初の量産型EV、リーフを2010年に投入している。
日産は世界初の量産型EV、リーフを2010年に投入している。

他の国では、EVが避けられない主流となりつつある。中国は自国向けと輸出向けのEVを産業戦略の重要な一部とし、米国でさえインフレ削減法の一環としてEVの生産と普及を促進するために膨大な補助金を用意している。

日産は2010年にリーフを初めて市場投入したが、2番目のEVであるアリアを発売したのは2022年だった。日本の自動車メーカーが複数のEVモデルを生産し始めたのは、日産、ホンダトヨタなどの世界的展開があるからに他ならず、日本国外での市場の変化に対応するためである。

調査会社オートフォーキャスト・ソリューションズのグローバル自動車予測担当副社長、サム・フィオラニ氏は言う。「従来、トヨタ、ホンダ、日産が小型車、小型トラック、SUV、ハイブリッド車といった新分野への参入をリードしてきました」

「プラグインハイブリッドを含むハイブリッド車で、排出ガスの改善に向けた取り組みの大部分を満たせると考え、最新のEV開発に必要な投資を遅らせていたのです。EVへの移行は、排出ガス対策が主な理由でしたが、巨大な中国市場へのアピールの必要性も背景にあります」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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