日本で電気自動車が普及しない理由 乗り遅れたのか、それとも… 英国人記者が考えてみた

公開 : 2023.11.16 18:05

EV需要の伸び悩みはむしろ好機

ジャパンモビリティショーで展示されたように、日本が現在開発中のEVは商業的な魅力がはるかに高く、バッテリーも大きくなっているようだ。トヨタレクサスの新しいモジュラーアーキテクチャーを採用したモデルは1000kmもの航続距離を実現するという。しかし、興味深いことに、これは多くの市場でEV需要が冷え込んでいる中での発表であった。例えば英国は、EVの成長が市場シェア17%弱で停滞している。

「日本の3大自動車メーカーが最新EVを開発すると発表した直後に、EVへの移行が突然軟化したのです」とフィオラニ氏は言う。「これらのEVが2~3年後に市場投入される頃には、市場成長の第2波を迎えているかもしれません。その間に大手自動車メーカーの多くが行ってきた、大規模な電動化投資の影響を受けずに済みます」

ジャパンモビリティショーは創造性に満ちていた。
ジャパンモビリティショーは創造性に満ちていた。

「当分の間、EVの成長が小康状態にあることは、日本の自動車メーカー、特にEV新製品のポジショニングが弱い中小企業にとっては好都合かもしれません。スズキは依然として効率的で信頼性の高い小型車やトラックを販売しており、マツダは最新の内燃エンジン搭載クロスオーバーを市場投入したばかりで、スバルは手頃な価格の四輪駆動車を求める消費者にアピールし続けている。BEVモデルにシェアを奪われ始めるまでは、こうした中小企業は市場に強く受け入れられ続けるでしょう」

ガイトン氏は、このような需要の一服とEVのコストに対する反動によって、立法者が日本の見解に賛同し、純粋な排出量だけでなく大局的な見地から考えるようになると期待している。「科学技術は時間をかけて進化していかなければなりません。消費者の選択もまた、これを推進することになるでしょう」

「英国ではここ数日、(内燃エンジン車の販売禁止を2035まで年緩和することで)一歩後退したと思います。わたしはそれほど詳しいわけではありませんが、ある意味、消費者の選択肢という点では一歩前進かもしれません。どのような言説があったかは知りませんが、EVを義務付けるのではなく、炭素問題を解決する……世界的にそのような方向に進む可能性はあると思います」

「しかし、時間の経過とともに、消費者の選択とわたし達が持つ解決策の成熟は、期待できるものだと思います」

成熟した日本市場

日本の自動車販売台数は、今世紀初頭には年間600万台近くまで伸びたが、その後は400万台程度まで落ち込み、中国、米国、インドに次ぐ世界第4位の市場となっている。

ジャトー・ダイナミクスのシニアアナリスト、フェリペ・ムノス氏は日本市場を「成熟した市場であり、飽和状態で、保護されており、EVの導入にはまだ消極的」と評している。

軽自動車は日本全体の販売台数の3分の1以上を占め、ホンダNボックスがベストセラーの座を堅守している。
軽自動車は日本全体の販売台数の3分の1以上を占め、ホンダNボックスがベストセラーの座を堅守している。

ムノス氏によれば、日本国内のベストセラー車は固定的で、「基本的に変化しない」という。2016年はトヨタ・プリウスが国内ベストセラーだったが、それ以降は軽自動車のホンダN-BOXになっている。

「トヨタのコンパクトモデルや小型ミニバンとともに、軽自動車がリードし続けています。日本市場のもう1つの特徴は、SUVの牽引力が低いことです。基本的にSUVの人気が低い唯一の市場なのです。しかし、これはヤリスクロスによって変わり始めました」とムノス氏。実際、ヤリスクロスは2020年の発売以来、毎年ベストセラーのトップ10に入っている。

日本市場は「地場産業を保護するために輸入車に対してかなり閉鎖的」だとムノス氏は指摘する。しかし、電動車の普及が遅々として進まないことが、かえって国際的な意思決定における影響力の面で日本の足かせになっているという。

「この事実が市場に影響を与えています。軽自動車は輸出の可能性のない日本専用車であり、電動化は他の先進国のようには進んでいません。このことと、ハイブリッド車に多額の投資をしてきたトヨタが圧倒的な強さを誇っていることから、世界のトレンドに沿っていないのです」

「日本ブランドの大半が世界的な存在感を示すことで、国内での優位性を強固なものにしています。日本で販売されるモデルの大部分は国内に特化していますが、日本ブランドは海外での好調によってその資金を賄うことができるのです」

記事に関わった人々

  • 執筆

    マーク・ティショー

    Mark Tisshaw

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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