高級SUVの盗難防止に18億円超… 「リレーアタック」防ぐアップデート実施、英国
公開 : 2023.11.22 18:05
・英国では昨年、5200台以上のレンジローバーが盗難被害に遭った。
・メーカーは被害の拡大を受け、1000万ポンドを投じてセキュリティ対策を実施。
・車体制御システムの強化やウルトラワイドバンド通信を導入。
多発する犯罪にメーカーが動いた
英国の自動車メーカーであるJLR(ジャガー・ランドローバー)は、一部モデルの盗難率が高いことを受け、1000万ポンド以上(約18億円)を投資して既存車両のセキュリティ強化を進めている。
英国では近年、JLRが製造・販売するレンジローバーなどの高級車で盗難被害が多発しており、一部の保険会社が補償を事実上拒否するなど大きな問題に発展している。英DVLA(運転免許庁)によると、レンジローバーモデルは昨年、国内2番目に多い5200台以上が盗まれたという。
JLRのエイドリアン・マーデルCEOは今年3月、「大都市における当社車両の盗難が問題になっている」と発言し、最も被害が大きい場所としてロンドンとマンチェスターを挙げた。
実際、ロンドン在住のレンジローバー所有者は保険加入のハードルが高くなっている。昨年、JLRと提携する保険会社Verexが補償を拡大しないと発表したため、JLRは独自の保険提供を中止せざるを得なくなった。他社も加入を渋るような姿勢を見せている。
マーデルCEOは、盗難の危険性があるのは「ほとんどが旧世代」のモデルであり、これらにセキュリティ強化を実施するとしている。
JLRは今年、2018年から2022年の間に製造された6万5000台以上のセキュリティを強化し、保証期間外の車両も含めて「現行モデルと同レベルの保護」を確保したという。現在、残りの車両の所有者に対し、ディーラーに持ち込むなどの対応を呼びかけている。
JLRは「かなりの台数が未解決です。まだアップデートに対応していないお客様にも懸命にアプローチしています」と述べた。
キーなしでは走れない仕掛けに
盗難は主に、キーレスエントリー・システムをハッキングし、キーを持たずに走り去るという方法で行われていたが、車体制御モジュール(BCM)のアップデートにより不可能になった。
これだけでもセキュリティ強化が見込めるが、同社はJLR専用アプリによる車両ロックのリマインダーや、車両への「不正な操作」があった場合にアラートを送信するガーディアンモードの利用を引き続き推奨している。
JLR英国部門のパトリック・マクギリカディ代表は、次のようにコメントしている。
「英国における車両盗難は自動車業界全体に影響を及ぼしていますが、JLRでは、このことがお客様の所有体験に悪影響を及ぼす可能性があると理解しています」
「当社の1000万ポンドを超える投資は、この問題に取り組む継続的なコミットメントを示すものです」
「法執行機関や主要パートナーとの長年にわたる協力関係を通じて、お客様が確実に保護されるよう、効果的な盗難防止策を引き続き開発・展開していきます。これはわたしの個人的な優先事項です」
レンジローバー以外のモデルについては公式声明では触れられていないが、同社の広報担当者は取材に対し、「(他のモデルも)アップデートの展開の恩恵を受けている」と述べた。
JLRによると、同社の新型車(2022年以降に製造)はウルトラワイドバンド(超広域帯)の通信技術を使用しているため「リレーアタック」の被害を受けにくいという。リレーアタックとはキーの信号を傍受して複製する手法で、ウルトラワイドバンドはその防止に効果があるとされる。
2022年1月以降、現行型のレンジローバーとレンジローバー・スポーツが盗難に遭ったのはわずか0.07%で、最新のランドローバー・ディフェンダーも2020年以降、0.3%に抑えられているという。