当時は「住宅12戸分」の価格 ベントレー 3 1/2リッター 90年前の富豪の理想(1)
公開 : 2023.12.16 17:45
発売から90年を迎えるダービー・ベントレー
ロールス・ロイスの兄弟モデルと同じく、ベントレーもボディは用意しなかった。エンジンとラジエター、ボンネット、飾りのないダッシュボードが実装された、シャシーのみの提供だった。
6年間にラインオフした殆どは、4ドアサルーンに仕立てられた。813台には、英国のコーチビルダー、パークウォード社によるスタンダード・ボディが架装された。
ほかにも、欧州全土で55社以上のコーチビルダーが、独自のボディを製造した。2シーターのスポーツカーや優雅なドロップヘッド・クーペ、アールデコ調に飾られたファストバックなどが生み出されている。
当初、ロールス・ロイスのダービー工場で生産された3 1/2リッターや4 1/4リッターは、ロールス・ベントレーと呼ばれていた。第二次大戦後、その工場は航空機エンジンの専用施設へ変更され、以降はダービー・ベントレーとマニアから呼ばれている。
1960年代に入ると、ダービー・ベントレーの価値は低下。状態を維持する余裕がないオーナーへ引き取られることも多かった。ボディのウッドフレームは腐り、ランニングギアは摩耗した。
しかし、1990年代からクラシックカーとして再評価。近年では、極めて美しいボディを載せた例なら、50万ポンド(約9250万円)で落札されることもある。とはいえ、5万ポンド(約925万円)で楽しめる例も少なくない。
現存するダービー・ベントレーの殆どは、活発に走れる状態にある。ブランドの歴史を今に伝える、時間旅行の真っ最中。1933年の発売から90年を迎える2023年は、改めて振り返るのに絶好の機会だろう。
シンプルで優雅、伸びやかなボディ
今回の5台で、ヴァンデンプラ・ボディを搭載した2ドア 4シーターのツアラーが、最も軽量で安価。1934年の価格は、1380ポンドだった。
ヴォーン・ウィーラー氏が現オーナーで、祖父は1941年に購入したという。その6年後に売却されるが、叔父が1969年に放置された状態で発見。1980年代にレストアを受け、インテリアのヤレた風合いを残しつつ、壮観なダーク・グリーンの容姿が蘇った。
ラインオフから今年で89年。走行距離は15万8000kmに達している。特徴的なラジエターや、上部が切り欠かれたサイドドア、リアのスペアタイヤまで、スタイリングはシンプルで優雅。高さが低く抑えられ、伸びやかだ。
3 1/2リッターの最初期の特徴といえるのが、ルーカス社製の小ぶりなヘッドライト。後に、大径のP100型へ置き換えられている。
ブラックとダブ・グレーのツートーンが魅惑的な2ドアサルーンは、ジェレミー・マーシャル・ロバーツ氏のダービー・ベントレー。スラップ&メイバリー社製のボディで、1934年に2台しか製造されていない。ラゲッジラックが、リアに備わる。
この時期のベントレーは、ツートーンで塗装されることが多かった。安価に取引されていた時代には、派手な色で再塗装されることも。しかし、これは落ち着いた配色で、ブラウンのインテリアとのマッチングも良い。
2009年に彼が購入した金額は4万6000ポンド。その後、電気系統のリフレッシュと、エンジンのリビルドが行われた。1950年代には、最高速記録を複数保持したドナルド・キャンベル氏が所有していたという。
この続きは、ベントレー 3 1/2リッター 90年前の富豪の理想(2)にて。
画像 90年前の富豪の理想 ベントレー 3 1/2リッターと4 1/4リッター 現行モデルと限定のバトゥールも 全123枚