「110km/h巡航が快適」な未来の能力 ベントレー 3 1/2リッター 90年前の富豪の理想(2)

公開 : 2023.12.16 17:46

110km/h前後が最も快適に巡航できる

クラッチペダルは軽い。右手のシフトレバーをギア比の低い1速へ倒し、発進直後に2速へシフトアップ。速度が乗ってくると、ステアリングが軽くなる。指先で操舵できるといっていい。

オープンゲートを前後するシフトレバーは、動かすたびにカチッと心地良い音が鳴る。回転数を適度に高めれば、ダブルクラッチでのシフトダウンは難しくない。

ベントレー 4 1/4リッター・コックシュート 4ドアサルーン(1937年式/英国仕様)
ベントレー 4 1/4リッター・コックシュート 4ドアサルーン(1937年式/英国仕様)

ブレーキにはメカニカルサーボが備わり、滑らかで強力。適切な整備を怠ると、劣化して思うように機能しなくなる。ダービー・ベントレーの特徴といえる。

1番軽いヴァンデンプラ・ツアラーが、最も加速は活発。ステアリングも正確。運転席へ座ると、ひと回り小柄に感じられる。フロントがリジットアクスルであることは、タイトコーナーでブレーキングが遅れた時のアンダーステアでわかる。

車重のある4ドアサルーンは、ゆったりと滑らかに速度が上昇していく。長いボンネットの先に、フライングBと呼ばれるマスコットが見える。威厳を感じさせる眺めに、心が満たされる。

カーブへ速めに突っ込むと、大きくボディロール。タイヤも鳴いてしまう。ベントレーらしく、必要以上に焦る必要はない。不足ない速度で、安楽な移動を叶えてくれる。

エンジンを3500rpm程度まで回すと、4速で112km/h。この速度域が、最も快適に巡航できる。アクセルペダルを僅かに傾けていればいい。

レッドラインは4500rpmから。AUTOCARが1934年にテストした時は、154km/hの最高速度を記録している。車重が1.7tもある高級サルーンとして、当時は驚愕の速さといえた。

アウトバーンへ対応するためのアップデート

1938年には、排気量拡大の次に大きな変更を受けた、MR/MXシリーズが追加される。ドイツではアウトバーンが、フランスでは高速道路が整備され始めていた。高回転域での長時間走行がもたらす、エンジンへの負担をベントレーは懸念したのだ。

そこでトランスミッションを改良。3500rpmで145km/hへ届くようにされた。同時にステアリングラックは、ウォーム&ナット式からカム&ローラー式へアップデート。ダッシュボードは、スピードメーターが中央側へ移動している。

ベントレー 4 1/4リッター MR/MXシリーズ・パークウォード 4ドアサルーン(1939年式/英国仕様)
ベントレー 4 1/4リッター MR/MXシリーズ・パークウォード 4ドアサルーン(1939年式/英国仕様)

ローレンス・ブレスデール氏のMシリーズは、第二次大戦が布告された2か月後、1939年11月にナンバーを取得している。パークウォード社による4ドアサルーンで、アルミ製ボディパネルの内側は、ウッドフレームからスチールフレームへ更新されている。

深みのあるグリーンのボディは、ブラックのワイヤーホイールと相まって、存在感が強い。4枚のサイドドアは、すべてリアヒンジ。レザーはベージュ。フロントガラスは上部がヒンジで、必要なら視界を確保するために浮かせられる。

先出の4台と同じように走るものの、確かに僅かに異なる。ステアリングホイールは、低速域でもさほど力を必要とせず、スチールフレーム製ボディはソリッドな印象がある。

Mシリーズのタイヤは、17インチx5.50ではなく16インチx6.50とサイドウォールが厚い。乗り心地も、若干マイルドなようだ。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・テイラー

    Simon Taylor

    英国編集部ライター
  • 撮影

    ジョン・ブラッドショー

    John Bradshaw

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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