ルノー「R.S.アルティメットデイ」 タイムアタックにR.S.の歴史と記録の「生き字引」も登場

公開 : 2023.12.02 20:05  更新 : 2023.12.03 07:47

編集部イチ速い? ポルシェ乗りのディレクター回想

正直いって怖かった。これがルノー・ジャポンから招待状を頂いた時の感想である。

安全の範囲内でクルマの特長を掴み、それを親愛なる読者の皆様にお伝えする。それだけでいいのに、終始自分の走りを見られ、タイムが貼り出される。

ルノーR.S.アルティメットデイ メディア対抗サーキットチャレンジ
ルノーR.S.アルティメットデイ メディア対抗サーキットチャレンジ

「気にしなくていいよ」「愉しむのがいちばん」

先輩ジャーナリストはそういうけれど、皆、見てないふりして見ている、のである。そういうインシツな世界なのだ。だから若手編集部員に押し付けて傍観しようと思っていた。それを察してか吉田拓生氏から「太朗君、来るよね?」の電話。逃げられなくなった、というのが本音だった。

吐きそうになりながら出走したスラローム。呼吸を乱しながら挑んだ第1走。いくつものコーンを跳ね飛ばし、それに焦ってミスコース。ゴールラインを踏み越えた先に見えた先輩ジャーナリストの視線は冷ややかだった。

あの空気、高校受験に失敗した直後、親戚の集まりの場のギスギス感を思い出した。仮病を使って帰ろうとさえ思った。

第2走目。欲をかかずに4コントロール(4WS)に頼った。ハンドルを切る。クルマが回転するかのようにひらひらとコーンの間を縫う。私の拙い技量を越えて、クルマが勝手に走る感覚。ゴールの向こうの電光掲示板が示すタイムは暫定1位だった。

その後、腕が評判の先輩ジャーナリストの多くが、コーンを跳ね飛ばし、順位を落とした。口を揃えて言う「俺の体に刷り込まれた感覚よりクルマが勝手に動いちまう」

素直になれよ。私が心のなかでそう思ったのは、むろん先輩へではなく、メガーヌR.S.ウルティムに対してである。扱いやすく、御しやすい。自分のスタイルを貫くよりも、クルマに委ねれば速く走れる。これこそが優秀なマシンの本領なのだと実感した。

サーキットタイムアタックでも一緒だった。1分19秒〜20秒をマークした。蓋をあけると私より遥かに遅いタイムの人が大半だった。手と足、お尻と背中を通じて、メガーヌR.S.の動きたい方向、ふるまいの意図が生々しい情報として伝わってくる。

唐突な所はなく、ジェントルだ。にも関わらず伝わってくる情報は生っぽく、きめ細かい。

あまり頑張っている感覚がなかったので、タイムをみて驚いた。編集部が所有しているノーマルのメガーヌR.S.にはないLSDの助けも大きい。

日常、快適に移動できて、サーキットでも頼りがいあるメガーヌR.S.ウルティムは名車だと思った。もっと、ずっと、一緒に走っていたいと思った。

満身創痍の愛機、神様の底力

メディア全員がタイムアタックを終えたとき、タイムテーブルのトップにはやはり業界イチ速い橋本洋平氏がいた。1分15秒72というこのタイムは2番手よりも1秒以上速いスーパーラップである。これはメガーヌR.S.の神様、ロラン・ウルゴン氏でも難しいはず。

神様はイベント当日、気前よくオーナー車のメガーヌR.S.にサインをプレゼントし、終始にこやかだった。アタックで愛機に乗り込む際もコンビニにいくようなリラックスした雰囲気。

ルノーR.S.アルティメットデイ メディア対抗サーキットチャレンジ
ルノーR.S.アルティメットデイ メディア対抗サーキットチャレンジ

そして電光掲示板には1分16秒中盤のタイムが表示されたのだった。

神様は負けたのか? いや違うだろう。H氏は先頭打者としてクルマが冷えた状態で走ったのに対し、神様はほぼ最終打者。直前に前タイヤだけ新品にしたが、ブレーキもエンジンも、そして後輪だって芳しいわけがない。

橋本氏の走りは丁寧に鼻先を曲げてからスロットルを開ける定石通りのもの。対する神様はオーバースピード気味にコーナーに突っ込んでそれでもスロットルを踏み切ってねじ伏せる気迫溢れるものだった。走行後に聞いてみると「もうブレーキがなかった」とひとこと。

それであのタイムは強烈! 神様というかルノースポール、いやアルピーヌの底力凄いな! と素直にそう思った。

アルピーヌは現在、電動のスポーツカーを開発中であり、神様は「いい感触を得ている!」と自信満々の様子。内燃機か電動かはともかく優れたスポーツモデルは本物の開発陣によってのみ生まれるもの。フランスが誇る電動スポーツカーの登場が待ち遠しい。

記事に関わった人々

  • 執筆

    吉田拓生

    Takuo Yoshida

    1972年生まれ。編集部員を経てモータリングライターとして独立。新旧あらゆるクルマの評価が得意。MGBとMGミジェット(レーシング)が趣味車。フィアット・パンダ4x4/メルセデスBクラスがアシグルマ。森に棲み、畑を耕し蜜蜂の世話をし、薪を割るカントリーライフの実践者でもあるため、農道のポルシェ(スバル・サンバー・トラック)を溺愛。
  • 執筆

    上野太朗

    Taro Ueno

    1991年生まれ。親が買ってくれた玩具はミニカー、ゲームはレース系、書籍は自動車関連、週末は父のサーキット走行のタイム計測というエリート・コース(?)を歩む。学生時代はボルボ940→アルファ・スパイダー(916)→トヨタ86→アルファ156→マツダ・ロードスター(NC)→VWゴルフGTIにありったけのお金を溶かす。ある日突然、編集長から「遊びにこない?」の電話。現職に至る。
  • 撮影

    小川和美

    Kazuyoshi Ogawa

    クルマ好きの父親のDNAをしっかり受け継ぎ、トミカ/ミニ四駆/プラモデルと男の子の好きなモノにどっぷり浸かった幼少期を過ごす。成人後、往年の自動車写真家の作品に感銘を受け、フォトグラファーのキャリアをスタート。個人のSNSで発信していたアートワークがAUTOCAR編集部との出会いとなり、その2日後には自動車メディア初仕事となった。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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