ヴェンサー・サルテ
公開 : 2014.11.14 23:40 更新 : 2015.06.16 16:36
ヴェンサー・サルテという名のスーパーカーの生みの親である38歳のロバート・コッベン氏が、生まれて初めて彼の家族とル・マンを観戦したのは、まだ彼が10歳のときだった。
当時といえば、1980年台半ば。圧倒的な強さを誇っていたポルシェ956やシルク・カット・ジャガーがサルテ・サーキットを席巻していた時代である。350km/hを超える速度でミュルザンヌ・ストレート(当時はまだシケインが設けられていなかった)の空気を切り裂くプロトタイプを目にしたコッベン少年は、あまりの速さにその場で立ち尽くしてしまったのだった。
”ル・マンに出場した80年台の素晴らしいクルマたちのスピリットを受け継いだクルマをつくりたい、という思いが浮かんだのは紛れもなくこの瞬間でした”。 そして、25年がたった今、あの時のコッベン少年の気持ちは寸分たりとも変わることなく、ここにサルテと名付けられた631psを叩き出す、フル・カーボンファイバー製のスーパーカーが産声を上げたのだ。提示価格は£250,000(4,598万円)となる。
スーパーカーを作るほとんどのスタート-アップ企業と異なり、ヴェンサー(ポルトガル語で ’逆境を乗り越える’ という意)に所属するコッベン氏と、気さくな十数人の従業員たちは数字に対して非常に現実的に向き合っている。
”最初の1年は5台から6台程度のサルテを製作する予定です” とコッベン氏。”そしてその翌年には1ヶ月に1台を予定しています。決して規模の大きいものではないですが、見る目のある顧客を確実に獲得しようと考えているのです”
ヴェンサー・サルテは決して万人受けするクルマではないのだが、これは敢えてそうしているのだそうだ。近代のフェラーリやポルシェ、マクラーレンに代表されるスーパーカーがもつ複雑な電子機構をサルテに与えなかったことにも確固たる理由があるのだという。”今でも電子制御が介入しない、純粋なドライバーズカーを求めている層がいると信じています。もちろんマニュアル・ギアボックスを組み合わせているクルマです” とコッベン氏。
しかし単純なるレーシングカーを作るわけではなく、”一般道を走ることのできる快適性と利便性はスポイルしたくありません” と続ける。
”南フランスでも疲れずに走ることのできる、グランドツアラーに近いスポーツカーといったところでしょうか” と筆者が聞くと、”私が言いたかったのはまさにそれです!” と氏は同意してくれた。余談ではあるが、コッベン氏は以前、配管系のビジネスで成功をおさめていたのだが、景気の衰退とともに、少年時代の夢を叶えるべく会社を売ったのだそうだ。
前置きが長くなってしまったが、早速サルテの美しいボディの内側がどうなっているのかを見ていくことにしよう。心臓部となるのは、ヘネシー・パフォーマンスによってチューニングが施されたGM製の6.3ℓ V8エンジン。631psと85.4kg-mを発揮するエンジンのヘッドとスーパーチャージャーはサルテ専用品なのだそうだ。
シートの背後にエンジンを載せるシャシーも専用品で、アルミニウムとクローム-モリブデンのハイブリッド構造。サスペンションは前後ともにダブル-ウィッシュボーン、組み合わされるトランスミッションは英国はリカルド製の6速マニュアル・ギアボックスだ。
車体後部にはLSDが組み込まれ、20インチの後輪には、オランダのタイヤメーカーであるヴェレデスティン社の295/30タイヤが装着される。ちなみに前輪は245/35 ZR19となり、これらもまた専用品だ。