英国のガソリンスタンド事情 EV普及で「給油」需要減 厳しい生存競争へ

公開 : 2023.12.09 18:05

大手の「デュアルフューエル戦略」

こうしたプラット氏の楽観論は、少なくとも短~中期的には、英国最大の独立系ガソリンスタンドグループの経営者も共有している。

「2030年までには、自動車市場の約20%がEVになる可能性があります。つまり、化石燃料の需要は依然として大きいということです」と、900以上の給油所を所有するMFGのウィリアム・バニスターCEOは言う。しかし、2035年までにはEVが市場の60%を占めるようになり、その数字はさらに上昇すると予測している。

EV充電器を導入するガソリンスタンドチェーンもある。
EV充電器を導入するガソリンスタンドチェーンもある。

そのため、MFGではすでに給油設備のすぐそばで急速充電ができるよう着手している。需要増加に伴い、主役が入れ替わる可能性もあるのだ。

「このデュアルフューエル戦略を実現するために、今後数年間で4億ポンド(約725億円)を投じます。現在、デュアルフューエルをすぐに導入できる700の施設を調査し、そのうち250か所は “通電” を待っているところです。当社の戦略は、整備が行き届いて稼働率の高い(通常は98%以上)複数の充電器を揃え、明るく安全なハブを作ることです」

1か所の充電ハブには約100万ポンド(約1億8000万円)かかるため、そのような投資をする余裕のない独立系の多くは閉店してしまうだろう。(酒場の)パブと同様、給油所も長年にわたり数を減らしてきた。1979年には4万軒の給油所があったが、同年にテスコ(スーパーマーケット大手)が燃料の販売を開始した。他のスーパーマーケットもそれに続き、2000年代初頭までに毎年約400の独立系および地方の給油所が撤退していった。

現在、地方の小規模独立系ガソリンスタンド(業界ではホワイトポール・スタンドと呼ばれている)約1000店舗を含め、合計8400店舗しかない。石油大手BPも、25%の縮小が続くと見ている。

複合施設化するガソリンスタンド

スーパーマーケットの給油所は安泰に思われるかもしれないが、ディスカウント店が市場シェアを拡大しているため、彼らでさえも圧迫を感じている。実際、MFGはモリソンズ(テスコと並ぶ業界大手)の給油所を買収し、さらにEV充電ハブを増設する方向で交渉中だ。

変化のスピードには専門家も驚いている。英国ガソリン小売業協会のゴードン・バルマー専務理事は「ほんの数年前までは、インディーズがスーパーマーケットの土地を買収したり、COVIDで在宅勤務者が増えるにつれて燃料需要が減少したりするなど、誰が予想できたでしょうか」と語る。

電動化に伴い、ガソリンスタンドは単なる燃料販売の場ではなくなった。
電動化に伴い、ガソリンスタンドは単なる燃料販売の場ではなくなった。

「最も大きな変化の1つは、買い物の習慣です。例えば、多くの人が土曜日の朝にまとめ買いするのではなく、より頻繁に買い足しを行うようになりました。これはスーパーマーケットの売上に影響を及ぼしていますが、給油所にとってはチャンスです」

消費者の習慣の変化に伴い、「チャンス」がどこへ移動したのか、英国のガソリンスタンドを利用する人なら体感的に理解しているだろう。

MFGのバニスター氏は、「20年前は、どの通りにもオフライセンス(酒屋などの個人商店)がありましたが、その多くがなくなり、今では給油所にあります。だから今、わたし達は地元のオフライセンスであり、コスタやスターバックスであり、クリーニング屋でさえもあるのです」と言う。

EVの普及が進むにつれて、ドライバーはこうした多様化を期待できる。EVを自宅や目的地などで充電できるようになれば、なおさらだ。ガソリンスタンドは、もはや燃料を売るだけの場所ではない。

ガソリン小売業協会のバルマー氏は、「加盟店の中には、売上の50%が燃料以外の収入になっているところもあります。これからの変化を反映して、英国ロードサイド小売業協会という名前に変更する日が来るかもしれませんね」と冗談交じりに言う。

記事に関わった人々

  • 執筆

    ジョン・エバンス

    John Evans

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    平成4年生まれ愛知在住。幼少期から乗り物好き。住宅営業や記事編集者といった職を経て、フリーランスとして自動車メディアで記事を書くことに。「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。

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