ビッグモーター保険代理店終了 41万件の保険契約と年間32億円の手数料が消滅 今後は?

公開 : 2023.12.10 20:05  更新 : 2023.12.11 18:55

保険代理店終了の理由が「保険金不正請求」ではないのはなぜか

このたび保険代理店登録取り消しという保険事業において、もっとも重い行政処分を受けることになったビッグモーターだが、その理由は何か? 「保険代理店登録を取消」と聞けば多くの人が「保険金不正請求が理由」と思うだろう。

実際、内部告発によって調査が開始された保険金の不正請求について、兼重宏行前社長はじめ経営陣が認めたことからビッグモーターの不祥事が世の中に知れ渡ることになったのは確かだ。

ビッグモーター不正報道
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これらは保険会社の健全かつ適正な業務運営に支障を来す行為であるにとどまらず、損保業界全体の信頼を失墜させかねない悪質かつ重大な問題である。

しかし実は、今回の行政処分の経緯や内容を読み進めていくと「不正請求」のことにはまったく触れられていない。なぜなのか? これについて関東財務局や損保各社に確認したところ、以下の理由であることがわかった。

・本件に関わる行政処分は保険業法307条1項3号に基づきBMグループの保険代理店業務(とくに募集行為)における問題点を理由として代理店の登録取消を命令するものである。
・保険金の不正請求行為は、保険代理店として行った募集行為に関するものではないため、処分の直接的な理由にはなっていない。
・一連の保険金の不正請求問題は、本件処分と同様にBMグループのガバナンス欠如が根底にあって発生したものである。
・不正請求はあくまで整備に関連する行為のため、金融庁の監督外(=国交省の管轄)である。

コストに見合った「利益を生まない」はバッサリ切る

わずか8か月で崩壊状態となった保険事業の管理体制だが、こちらも兼重宏一前副社長の判断によって大きく傾いていったことがわかる。

令和2年6月に兼重宏一副社長の判断により「コストに見合った利益を生まない事業」という判断によって苦情対応コールセンター事業を廃止して以来、保険部による各店舗への指導や教育の取組も中止し、保険部の体制は大幅に縮小、募集人の指導や教育など、必要最小限の管理体制も維持できなくなった。

ビッグモーター不正報道
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令和3年2月、コストに見合う効果が得られないとして保険募集の管理/指導を行う保険推進委員も廃止したことで内部監査も全く機能しなくなってしまった。結果、保険業法違反となる不適切な事例が多数認められることになった。

・きわめて短時間に契約手続きを行った148件のうち、122件に重要事項の説明を行わずに契約。
→関係者いわく「今の自動車保険の募集はシステム(タブレット等)で画面を提示しながら説明するスタイルが主流。正しい手順を経ると契約締結まで最低でも10分以上かかる(時間もすべて記録される)数分で終わっている場合、十分な説明がされなかったのではとの疑義に繋がる」とのことで、疑義のある契約を詳しく調べた結果148件中122件で重要事項の説明が行われていないことがわかった。

・保険加入を条件に車両価格を値引くなど、保険業法第300条第1項第5号で禁止する特別利益の提供を行っていた。
→保険を契約する代わりに車両価格を値引く禁止行為。ビッグモーター以外、新車ディーラーでも割と当たり前に行われているという情報もある。

・下請業者にBMグループで保険加入させるよう指示。149件中、121件について圧力による保険加入と判断された。
→下請け業者の扱いは店舗によって異なるが、業者の家族は所有する車の保険や車検も強制的にビッグモーター扱いに切り替えていたケースもあった。

なおこれらは全体の数字ではなく、ごく一部を抽出した数字となる。

記事に関わった人々

  • 執筆

    加藤久美子

    Kumiko Kato

    「クルマで悲しい目にあった人の声を伝えたい」という思いから、盗難/詐欺/横領/交通事故など物騒なテーマの執筆が近年は急増中。自動車メディア以外ではFRIDAY他週刊誌にも多数寄稿。現在の愛車は27万km走行、1998年登録のアルファ・ロメオ916スパイダー。クルマ英才教育を施してきた息子がおなかにいる時からの愛車で思い出が多すぎて手放せないのが悩み。
  • 編集

    AUTOCAR JAPAN

    Autocar Japan

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の日本版。

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