メルセデス-AMG GT S
公開 : 2014.11.14 23:50 更新 : 2017.05.23 16:37
だからといって経済性は完全無視なのかというと、全くそんなことはなく、複合サイクル燃費は10.7km/ℓ、CO2排出量は219g/kmと、スポーツカーとしてはかなりの好成績だ。
エンジン・ブロックとフロアパンをつなぐダンパーはSLS AMGブラック・シリーズと共通のものを使用。油圧アクティブ・エンジン・マウントを使用した、初のAMGモデルでもある。このおかげで荷重にたいするリアルタイムの制御が可能。エンジンの動きが最小限になることにより、ハンドリングにもいい結果をもたらすのだ。
足元はAMG GTの専用品で、前後ともにダブル-ウィッシュボーン式となるのだが、フロントは一般的な構造で、リアはさらに複雑になっている。またこれらは直接ボディに接続されることにより、より優れたホイール・コントロールが行えるようになる。頑強なスタビライザーも加えられ、タイヤ・サイズはフロントが255/35 19インチ、リアが295/35の同じく19インチという設定だ。
速度によってアシストの度合いが変化する、賢明なエレクトリック-メカニカル・ステアリングと新しいサスペンションのおかげでレスポンスの鋭さは特筆すべき点といえる。ボディ・コントロールは傑出したレベルにあり、どんなシチュエーションにおいても、SLSよりも洗練されていると筆者は感じた。
操舵には引っかかりが全くなく、狙った方向にダイレクトに鼻先を向けることができる。ヒヤリとさせられるようなことも皆無で、終始リラックスして運転できる仕立てでありながら、こちらが望んだ時には最高レベルのパワーを発揮できるのはさすがとしか言いようがない。
運転していると、足元で何が起こっているのかが手に取るようにわかる。鮮明に映像化されているとも言うべきか、このおかげでSLSを運転するときよりも自信を持ってエイペックスまでプッシュすることができるのだ。コーナーの出口ではたっぷりとしたトラクションを得ることができ、シャシー・チューニングとずば抜けたキャリブレーションのおかげで、すぐに次の動作に移ることが可能だ。
後輪がずるずると滑り始めても、電気制御のおかげで破綻することはないし、この瞬間がとにかく楽しくてたまらない。
なにより感動したのは、これらすべての要素が仲違いすることなく、とても強固に結束されている点だ。すでにSLSがデビューした時点で、ポテンシャルの全てを解き放つことのできる ’うつわ’ があったのだが、GT Sはさらにその上をいっている。
速さは言うまでもないし、シャープな身のこなしも最高レベル。乗り心地はSLSよりもさらに磨きがかけられ、スポーツ・プラスやレース・モードにした時のエグゾースト・ノートは陶酔もの。エフィシェンシー・モードにした際にスロットル・コントロールが出しゃばらないとくれば、史上最強、天下無敵のグランド・ツアラーと結論づけてもいいかもしれない。
これほど乗り手を感動させることのできるクルマだと、いささか酷な気持ちもしなくないが、今後のさらなる飛躍を祈り、あえて欠点を挙げるならば ’ドラマが足りない’ といったところだろうか。少なくともカーボン-セラミック・ディスクを組み合わせたテスト車両にたいして、筆者はそう感じた。
フロントが402mm、リアが360mmという驚愕するサイズのカーボン-セラミック・ディスクに、ひとたび熱が入れば、フェードの予兆すらないダイレクトな制動が可能だし、サーキットを走りこんだ後も効きが維持されているのだが、ディスクが冷えきった状態では、残念ながら、あまりにも効きが甘かったのだった。