英国の制限速度事情 今も論争耐えない「70マイル」の上限 1965年12月に起きたこと

公開 : 2023.12.11 18:45

延期を繰り返す「試験導入」

眉をひそめ、悲観的になったのは我々だけではなかった。

「これは敗北主義的な政策だ。何の効果もないと確信している」と保守党の影の運輸大臣、マーティン・レッドメイン卿は一蹴した。

当初「4か月」の試験として導入された70マイル制限は、期間を何度か延長した後、恒久的なものとなった。
当初「4か月」の試験として導入された70マイル制限は、期間を何度か延長した後、恒久的なものとなった。

AA(英国自動車協会)も「我々は、(この政策が)交通安全の有意義な改善を達成するというエビデンスにについて、まだ確信が持てない」と言う。

慈善団体IAMのテストディレクター、ジョージ・アイルズ氏は「米国では制限はあまり効果がない。昨年1年間に4万7500人が路上で死亡したが、その数は朝鮮戦争(3年間)での戦死者を上回っている」と述べた。

ジャガーの創設者であるウィリアム・ライオンズ卿は「教育、効果的な警告標識、警察の取締りなどによって安全性を高める努力をしなければならない」とした。

4か月の試験終了後、フレイザー運輸大臣の後任であるバーバラ・キャッスル(彼女は運転ができなかった)は、道路調査研究所にデータを集計・分析する時間を与えるため、試験期間を2か月延長すると突然発表した。

何か胡散臭い……統計学者が何か企んでいるのではないか? 驚くべきことに、キャッスル大臣は「ケースが未証明」として、試験期間をさらに15か月延長した。

1967年7月、同研究所が最終的に調査結果を発表した際、RAC(王立自動車クラブ)の副会長であるチェシャム男爵はこう総括した。「これほど多くの統計が、これほど多くの変数で比較されたことはない。この報告書には、グリムスビーのトロール漁船の船倉をいっぱいにするほどのレッド・ヘリング(燻製ニシンの虚偽:相手の注意を逸らすという意味)がある」

以下はその調査結果の抜粋である。

「(M1での)全死傷者数に占める死者・重傷者数の割合は、1960年から1965年の間に38%から57%の間で変動し、試験期間中の値(53%)はこの範囲内に収まった」

数日後、キャッスル大臣はこの制限を恒久化すると述べた。

記事に関わった人々

  • 執筆

    クリス・カルマー

    Kris Culmer

    英国編集部ライター
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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