W12気筒の終焉 ベントレー・フライングスパー・スピード 追い求める数値より大切なもの
公開 : 2023.12.12 17:45
W12エンジンの終焉を飾る1台として、ベントレー・フライングスパー・スピードの試乗記です。W12エンジンは来年早々にも生産が終わるとアナウンスされており、今回は究極の内燃機関ベントレーの質感を書き記します。
終焉間近、12気筒の贅を味わう
ベントレーのラインナップで存在感を発揮する「スピード」というグレードはすっかり定着している。
その名の通り、スピードに特化したモデルに用いられるこの呼称は、21世紀になって登場したコンチネンタルGTで初めて世に出たイメージが強いかもしれないが、そこは創業100年を越す古豪である。草創期のモデルにもちゃんと前例があるのだ。
さて今回のベントレー・フライングスパー・スピードを前にして「またか」と思ってしまった。
いよいよ、6LのW12エンジン搭載モデルの受注が終了し、来年早々にその生産も終了してしまうのである。最近はこの「受注終了」というパターンが実に多い。大排気量エンジンや排ガス規制に対応できないものから順次ラインオフとなり、来る電動化の時代に備えよう、というわけである。
ベントレーのW12ツインターボ・エンジンは言わずもがなVWグループによって開発されたパワーユニットである。狭角V6エンジンを縦ではなく横方向で結合したようなそれは12気筒でありながら比較的コンパクトという特徴を持っていた。
クランクシャフトが1回転する間に12回も爆発が起こる。じゃなかった、4ストロークだから2回転の間に12回。とにかく、ドカンッドカンッと爆発が露になるバイクの単気筒エンジンの対極ともいえる回転の緻密さを特徴としている。でもそれが将来的には電気モーターでは無段階になるのだから、電動化こそ究極の進化? ともあれ今回は究極の内燃ベントレーの動的質感に浸ることにしよう。
W12エンジン、数値を超えた質感
「スピード」だからではなく、そもそも3世代目となる現行モデルのフライングスパーは速い。
というかベントレーの4ドアモデル史上で最もスポーティな走りをするモデルと言っていいだろう。その核となっているのはトルコンからDCTに変わった8段ギアボックスの存在だと思っている。
DCTのシームレスな変速とW12エンジンの滑らかな回転フィールの相性が悪いわけがない。今回走りはじめたときにあらためて感心させられたのはその部分だ。
デジタルの文字盤に表示されているエンジン回転数の多寡に関係なく、右足に力を込めれば静寂を保ったまま2.5トンのボディがスッと押し進む。
635psというW12型ツインターボ・エンジンの最高出力は先代のフライングスパーW12Sから変わっていない。パワー的には「必要にして充分」ということなのだろう。実際にこれが700psに達したところでベントレーの世界観が変わるとは思えない。
W12なきあとのベントレーの心臓は4LのV8が務めることになる。こちらも550psの最高出力を誇るので不足はないが、回転が上がっていく際の質感は違う。ターボによって鮮やかに速度が伸びるV8に対し、W12は自然吸気的な踏んだら踏んだだけ加速する凝縮感を特徴とする。
ハイエンドブランドの作品ということを考えれば、数値を超えた質感を持つW12の引退は実に残念な事実だ。