「華麗なカーチェイス」で刻んだ記憶 フォード・マスタング・ブリット 4世代を比較(1)

公開 : 2023.12.24 17:45

1960年代、派手なカーチェイスで鮮烈な記憶を残した映画「ブリット」 そのイメージを継承した3世代のマスタング 英国編集部が初代とともに比較

記憶に残るマスタングを生んだマックィーン

俳優、スティーブ・マックィーン氏演じる警部補が、渋いマスタングで華麗なカーチェイスを繰り広げた映画、「ブリット」。ワーナー・ブラザーズと手を組んだフォードは、ハイランド・グリーンに塗られた1968年式のGT390 ファストバックを提供した。

マックィーンの天才性は、マスタングを激しい描写へ見事に同調する、荒々しいクルマへ仕立てたことにも表れていた。フォードは「ブリット」で生まれたイメージを、現代まで育み続けてきた。

4台のフォード・マスタング・ブリット オリジナルのレプリカとリメイク版3世代
4台のフォード・マスタング・ブリット オリジナルのレプリカとリメイク版3世代

ロックスターが奏でるような、派手なBGMはナシ。実際の道路を駆け抜ける2台が、10分53秒に渡ってカーチェイスを続ける。不自然に演出された当時の表現から一線を画すリアルな展開は、劇場で見る者へ衝撃を与えた。

グリーンのフォルクスワーゲンビートルが何度も登場することや、同じ左折シーンが2度用いられたことはご愛嬌。本物が追求されていたことは間違いない。マスタングも、しっかり肉体改造されていた。

レーシングドライバーでエンジニアだったマックス・バルチョースキー氏は、初代マスタング・ファストバックをチューニング。390cu.in(6384cc)のV型8気筒エンジンに手を加え、派手なスタントシーンへ対応させた。

だが、記憶に残る見た目をディレクションしたのは、マックィーン本人だったという。ハイランド・グリーンの塗装は、落ち着いた印象を与えるのと同時に、悪役の黒光りするダッチ・チャージャーと効果的な違いを生んだ。

濡れた路面では4速でもリアタイヤが滑り出す

テールライトやガソリンタンク・キャップ、ウインドウモールなどは、ダークグリーンやブラックで塗装。シリアスなイメージを強調していた。

フォグライトやバックライトといった装備は省かれ、フロントグリル内はシンプルなメッシュへ張り替えられた。当時のフォードは、ポニーのエンブレムが外されたことを知り、反発したのではないだろうか。

フォード・マスタング GT390 ファストバック・ブリット・レプリカ(1968年式/欧州仕様)
フォード・マスタング GT390 ファストバック・ブリット・レプリカ(1968年式/欧州仕様)

初めはドアミラーも外されていたが、ダークグリーンに塗装されたヤンキーメタル・プロダクツ社製の丸いミラーが、多くのシーンで映し出されている。ウインカーレバーの先端にあるフラッシャーは、最後まで残った。

デビッド・レッドヘッド氏が所有する1968年マスタング・ファストバックは、そのヒーローを忠実に再現したレプリカ。英国に存在するブリット仕様のマスタングで最も完成度が高く、状態が良い。世界中を見渡しても、トップクラスにあるはず。

EFFPI社製の、穴の空いた3スポーク・ステアリングホイールは、本来はシボレーコルベット用。アメリカンレーシング社製のトルクスラストDホイールも同様で、ボルトパターンが異なるため、手を加えなければ装着できない。

実際に試乗させていただくと、クラシカルなアメリカン・マッスルカーそのもの。操縦系が重すぎたり軽すぎたりということはない。

極めてトルクフルで、1速でも3速でも、アクセルペダルを強く踏みすぎるとリアタイヤが滑り出す。濡れた路面では、4速へ上げても耐えきれない。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

フォード・マスタング・ブリット 4世代を比較の前後関係

前後関係をもっとみる

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事