「華麗なカーチェイス」で刻んだ記憶 フォード・マスタング・ブリット 4世代を比較(1)

公開 : 2023.12.24 17:45

販売数を回復させる効果的なアップグレード

ステアリングレシオはスローで、映画のように勢い良く向きを変えるには、大きなステアリングホイールを思い切り回す必要がある。勇気を奮い立たせて。

穏やかに運転するぶんには、至って快適。とはいえ、捲し立ててスポーティな個性を引き出す方が望ましい。リアタイヤのグリップ力を過信しなければ、不安は小さい。

フォード・マスタング GT390 ファストバック・ブリット・レプリカ(1968年式/欧州仕様)
フォードマスタング GT390 ファストバック・ブリット・レプリカ(1968年式/欧州仕様)

レッドヘッドのレプリカを見ると、多くの初代がブリッドに影響を受けた理由がわかる。鮮やかな塗装とクロームメッキ・トリムの組み合わせではなく、気取らずクールな雰囲気にある。マックィーン本人のように。

初代マスタングは、世代交代とともに価値が軽んじられるようになるが、20世紀末に入ると復調。クラシックカーとしてコレクターの関心が高まり、レストアされる例も増えていった。ブリッド風に仕立てられることも少なくなかった。

フォードもその変化へ注目し、2000年のロサンゼルス・オートショーで4代目マスタングをベースにしたブリッド仕様を発表。ボディはハイランド・グリーンで塗装され、フロントグリルはメッシュに。トルクスラストDを模したアルミホイールが履かされた。

ボンネットに大きなエアインテークが開けられ、フォード・ブースでは最も多くの人気を獲得。4代目はモデル末期にあり、販売数を回復させる効果的なアップグレードになると判断された。

半数以上が指定したハイランド・グリーン

量産仕様の登場は、2001年4月。メッシュグリルとインテーク付きボンネットは、衝突テストや生産設備へ求められるコストを理由に、実現されなかったが。

それでも、ステッカーやストライプで飾る以上の内容が必要だとも考えられていた。ボディサイドには、1968年式ファストバックを彷彿とさせる専用トリムが与えられ、車内にはクラシカルなリブの入ったレザーシートが設えられた。

フォード・マスタング・ブリット(4代目/2001〜2002年/欧州仕様)
フォード・マスタング・ブリット(4代目/2001〜2002年/欧州仕様)

17インチのトルクスラストD風アルミホイールは、ブリッド仕様より先に、上級のGTグレードへオプション設定されていた。ボディカラーには、ブラックとブルーも用意。それでも、半数以上のオーナーがハイランド・グリーンを指定した。

ブリッド仕様のマスタングは、理想的なタイミングでリリースされた。映画「ブリッド」をリアルタイムで見ていた10代の少年たちは、年齢を重ね一定の資金力を持つようになっていた。

同時にBMWミニなどを中心に、懐古的デザインのブームも訪れていた。クライスラー PTクルーザーが、北米では人気を集めていた。

アップグレードは見た目だけに留まらず、アグレッシブなサウンドも追求された。ただし映画では、別に収録されたレース用V8エンジンの音へ、編集時に置き換えられていたのだが。ゆっくり走るシーンのみ、本来の音が残されていた。

この続きは、フォード・マスタング・ブリット 4世代を比較(2)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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