「最高のリメイク」は何代目か フォード・マスタング・ブリット 4世代を比較(2)

公開 : 2023.12.24 17:46

一層シリアスな改良が加えられた6代目

2008年式マスタング・ブリッドの走りは、5代目のそれとほぼ同じ。ロンドンの北西、バッキンガムシャーの幅の狭い一般道を、スポーティに操れる。ステアリングホイールやペダル、シフトレバーと格闘する必要はなく、運転の充足感を高めている。

リアはリジットアクスルのままで、荒れた路面では跳ねがちながら、コーナリングは4代目マスタングより遥かに落ち着いている。V8エンジンのレスポンスやサウンドはマイルドに調整されているものの、現代のモデルでは鑑賞しにくい吸気音が響く。

フォード・マスタング・ブリット(6代目/2018〜2020年/英国仕様)
フォード・マスタング・ブリット(6代目/2018〜2020年/英国仕様)

最高出力は319ps。マッスルカーとしては控えめかもしれないが、公道ではまったく不足ない。迂闊に踏み込むと、一瞬でリアタイヤが暴れはじめる。

対して、6代目マスタングのブリッドには、一層シリアスな改良が加えられている。映画の公開50周年を記念し、2018年に販売がスタート。モデルイヤーとしては、2019年式となる。

内容は変わらず。ボディはグリーンで、フロントグリルはメッシュ。リアにブリッドのエンブレムが与えられ、ホイールは太い5スポーク。専用サスペンションが組まれ、V8エンジンは僅かに増強され、サウンドが磨かれた。インテリアの変更も小さくない。

この6代目のブリッドは欧州にも輸入され、GTパフォーマンス・パッケージに準じる内容が選べることで、注目度は高かった。エンジンの排気量は5038cc。英国仕様の最高出力は459psで、初代マスタング GT390 ファストバックから50%も増強している。

5代目以前と異なる次元の動力性能

実際の走りも、確実に高性能。コーナーではボディロールが抑制され、現代的なスポーツカーらしい。フロントには6ポッドのブレンボ社製ブレーキが組まれ、ペダルへ力を込めると息が苦しくなる勢いで速度を殺す。

テールは落ち着きを増し、路面をしっかり掴む。乾燥した路面でのホイールスピンは、低い速度に限られる。

フォード・マスタング・ブリット(5代目/2007〜2008年/欧州仕様)
フォード・マスタング・ブリット(5代目/2007〜2008年/欧州仕様)

動力性能は5代目以前と異なる次元にあり、最新のスタントドライバーを雇えば、壮大なカーチェイスを披露するに違いない。現代にスティーブ・マックィーン氏が生きていても、満足するシーンを収められるだろう。

初代を除き、ベースのマスタングから最も大きな違いが与えられていたのは、2001年式かもしれない。それぞれの世代に、それぞれの強みがある。だが、映画の精神のリメイクに最も成功していたのは、2008年のブリッドだと筆者は思う。

フラットで引き締まったボディラインには、2001年式や2019年式とは異なる、オリジナルとの結びつきが表現されている。グレートブリテン島のぐずついた天気の市街地でも、派手なドリフトで敵を追い詰めたくなるような、固有の個性が備わっている。

協力:チャーリー・アクイリナ氏、デビッド・レッドヘッド氏、アンドリュー・スペンサー氏、アラン・デイビス氏、ウィコム・ワンダラーズFC

記事に関わった人々

  • 執筆

    チャーリー・カルダーウッド

    Charlie Calderwood

    英国編集部ライター
  • 撮影

    リュク・レーシー

    Luc Lacey

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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