ロータリーエンジンの栄枯盛衰 名車・珍車36選 前編 メーカー各社の挑戦

公開 : 2023.12.17 18:05

短所

ロータリーエンジンの性質上、燃料を取り込み、排気するという循環をほぼ絶え間なく行う。これは燃費と排気ガスに悪影響を及ぼすことが多く、前述の長所にもかかわらず本格的に普及しなかった主な理由の1つである。また、ロータリーはトルクの細さがよく知られている。ローターは常に回転しており、ピストンをシリンダー内に押し込む燃焼の力には及ばない。

ロータリーが大きなパワーを生み出すのは、回転数が高いからであって、トルクのおかげではない。さらにもう1つ、ローターの先端がチャンバー内を傷つけることなく完璧にシールしなければならないという問題もある。失敗すると悲惨なことになり、通常はエンジンを廃棄しなければならない。

ロータリーエンジンには解決すべき課題も多く、普及の障壁となっている。
ロータリーエンジンには解決すべき課題も多く、普及の障壁となっている。

NSUスパイダー

現在はフォルクスワーゲン・グループのどこかに埋もれてしまったNSUだが、ヴァンケル型ロータリーエンジンに真剣に取り組んだ最初のメーカーである。1957年にプロトタイプを走らせ、その7年後には後発のエンジンを市販車に搭載した。

それがセダンのプリンツから派生した美しい小さなスパイダーだ。シングルローターエンジンをリアに搭載し、コンペティションで大成功を収めたが、メガホンマフラーを装着した場合、その音は驚異的だった。

NSUスパイダー
NSUスパイダー

スコダ1000MB

1964年、NSUスパイダーと同じ年に発表されたスコダ1000MBだが、ロータリーエンジンの歴史においてまったく異なる位置に立っている。というのも、市販モデルには搭載されなかったからだ。ロータリーのプロトタイプはいくつか作られたが、スコダは一般に販売する乗用車ではピストンにこだわった。

メーカーがロータリー車を生産開始前に中止したのはこれが初めてのようだが、最後ではなかったことは間違いない。その後10年も経たないうちに、業界では開発中止がほとんど当たり前のようになっていった。

スコダ1000MB
スコダ1000MB

フォードマスタング

1965年、米国のカーチス・ライト社(航空事業で有名)は発売されたばかりの初代マスタングを購入し、4.7L V8エンジンを取り外して、独自のツインローターユニット「RC2-60」に載せ換えた。

カーチス・ライト社は、米国の自動車メーカー向けのロータリーエンジン・サプライヤーになれると期待していた。マスタングは多くの関心を集めたが、メーカーが振り向くことはなかった。同社の夢とは裏腹に、現在インディアナ州オーバーンにある国立自動車&トラック博物館(National Auto & Truck Museum in Auburn)に展示されているこのクルマは、これまでに製造された唯一のロータリーエンジン搭載マスタングであると考えられている。

フォード・マスタング(写真は代表的な1965年型)
フォード・マスタング(写真は代表的な1965年型)

記事に関わった人々

  • 執筆

    AUTOCAR UK

    Autocar UK

    世界最古の自動車雑誌「Autocar」(1895年創刊)の英国版。
  • 翻訳

    林汰久也

    Takuya Hayashi

    1992年生まれ。幼少期から乗り物好き。不動産営業や記事制作代行といった職を経て、フリーランスとして記事を書くことに。2台のバイクとちょっとした模型、おもちゃ、ぬいぐるみに囲まれて生活している。出掛けるときに本は手放せず、毎日ゲームをしないと寝付きが悪い。イチゴ、トマト、イクラなど赤色の食べ物が大好物。仕事では「誰も傷つけない」「同年代のクルマ好きを増やす」をモットーにしている。

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