「普通の美意識」は通用せず? アストン マーティン・ラゴンダ ブリストル412 ロールス・ロイス・カマルグ(2)

公開 : 2023.12.31 17:46

近未来的なスタイリングと見事にマッチ

ブレーキの制動力は優秀で、姿勢制御も落ち着いている。V8エンジンのサウンドは、聴き応えがある。ステアリングは、適度な重みがあり反応を予想しやすい。だが、切り始めにデッドゾーンがあり、その後も感触が豊かとはいえない。

コーナリングの印象は、412よりロールス・ロイス・カマルグの方がベター。ステアリングホイールは軽く回せ、反応はリニア。想像以上に扱いやすい。ふわりと漂うような快適性でも、大きな差をつけている。

アストン マーティン・ラゴンダ(シリーズ4/1987~1990年/英国仕様)
アストン マーティン・ラゴンダ(シリーズ4/1987~1990年/英国仕様)

カマルグのインテリアは遥かに上質。毛足の長いカーペットが敷かれ、ダッシュボード上のウッドパネルには、スイッチやメーター類が整列する。フロントから6.75L V8エンジンのささやきが聞こえ、リラックスした体験を生む。

コラムシフトのレバーをDへスライドさせ、右足を優しく傾けると、スポーツホイールが回転しだす。ベロア張りの車内で、甘美な移動時間へ浸れる。

積極的な旋回を試みると、ボートのように大きくボディロールしてしまう。タイヤからはスキール音が放たれる。そんな速度域で走ることは、重要視されていない。

一方、ラゴンダのインテリアは、当時の近未来的なスタイリングと見事にマッチしている。運転席へ腰を下ろすと、古いコンピューターと向き合ったような感覚になる。往年のSF映画のBGMが聞こえてきそうだ。

ステアリングは、この3台では1番感触が豊かで、レスポンスも良好。ボディロールは抑制され、動的な能力は明らかに高い。コーナーでも落ち着きは失わず、活発に運転したいと思わせる。

3車3様の他に紛れない明確な個性

5.3L V8エンジンは313psを発揮するが、車重は2023kgあり、瞬発力は際立つほどではない。それでも、速度が乗れば期待通りの走りを披露する。

メーターパネルでは、グリーンのLEDが灯る。エンジンの回転数がどのくらいなのか、細かくは読み取りにくい。沢山並んだボタンの機能は、最後まで理解しきれなかった。

ブリストル412(1975〜1982年/英国仕様)
ブリストル412(1975〜1982年/英国仕様)

それぞれの走りは、スタイリングと同じくらい個性的。カマルグは、湯船に浸かったように心地良い。ラゴンダはシャープに身をこなし、意欲的なドライバーへ喜ばれるだろう。ブリストルは、その中間に位置する、陽気で楽しいカブリオレだ。

予想外だったのが、カマルグ。巨大なボディからして、のっしり動くのかと想像していたが、遥かに引き締まった走りで驚かせてくれた。

今回の3台で筆者が選ぶなら、412。名の知れたブランドに媚びない、勇気ある選択かもしれない。自身の中で消化しきれない、クセのあるスタイリングをまとうことが、魅力といえる。好みや先入観を、見直す機会になりそうだ。

いずれのモデルも、ひと目で魅了されるような美貌とはいえない。一般的な美意識とは一線を画す。しかし、他に紛れない明確な個性を宿している。

周囲の意見がどうあれ、強い心象を残す。こんなクルマは、もう二度と作られることはないだろう。

協力:ポール・ウィルソン氏、マーク・グリフィス氏、デヴィッド・ウィロビー氏、ステファン・チェンブロヴィッツ氏、ブリストル・オーナーズ&ドライバーズ・アソシエーション、ロールス・ロイス・エンスージアスト・クラブ、ラゴンダ・クラブ

※この記事は、2013年3月に執筆されたものです。

記事に関わった人々

  • 執筆

    サイモン・チャールズワース

    Simon Charlesworth

    英国編集部
  • 撮影

    トニー・ベイカー

    Tony Baker

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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