クルマを操る密度を増すソフトなシャシー

911 ダカールは、まったく違うポルシェ。通常よりサスペンションはソフトで、タイヤの接地面は小さい。この組み合わせが、見事に機能している。

グリップ力は限られ、アスファルトへ貼り付くような感覚は薄い。むしろ、胸のすくような身軽さで、自然な振る舞いで疾走していく。

英国ベスト・ドライバーズカー(BBDC)選手権 2023 公道ステージでの審査の様子
英国ベスト・ドライバーズカー(BBDC)選手権 2023 公道ステージでの審査の様子

オフロードにも対応するピレリ・スコーピオンに合わせて、コーナーでのライン取りやスタンスをしっかり考える必要がある。それがクルマを操るという密度を増し、楽しさを高めている。

ウラカン・ステラートも、カテゴリーとしては同じフィールドにある。丘を駆け登る最中に、V型10気筒エンジンが威嚇するようなサウンドを撒き散らすが。

こちらも、スプリング・レートとタイヤ・サイズを落とすことで、過去のランボルギーニとは異なる体験が生み出されている。傍観者のように、マシンへ乗せられている感覚はない。ドライバーがアクションの中心だ。

しかし、911 ダカールと同様に、若干の懸念がよぎる。公道でこれほど素晴らしいシャシーは、サーキットでも好印象を残すことが限られるからだ。

2台のBMWを交互に運転することは、改めて勉強になった。M3 CSの方が鋭くタイトだが、公道に適しているのはM2 コンペティションの方だろう。

先代のF87型M2 コンペティションより、最新のG87型は大きく重い。それでも、楽しさも忘れていない。郊外の一般道を飛ばせば、従来どおり面白い。後輪駆動に6速MTという組み合わせも、素晴らしい宝物だ。

サーキットでなければ探りきれない進化ぶり

M3 CSも後輪駆動へ切り替えられるが、リアが奔放になるトラック(サーキット)・モードのみ。公道でも満足できるとはいえ、突き詰めていくと、許容度の高い環境が前提だと実感する。

やはり、サーキットがホーム。M3 CSは、そこで強く輝くかもしれない。

アルピーヌA110 R(英国仕様)
アルピーヌA110 R(英国仕様)

アリエル・アトム 4Rも同じ。濡れた一般道では、手に余るほど速い。この環境を前提に設計されていない、という印象が拭えない。

すべてを解き放てるサーキットを、クルマが待っているような感じ。少なくとも、安心感は予想以上。見た目はエクストリームだが、ABSとトラクション・コントロールが、しっかり機能していた。

翻って、ホンダシビック・タイプRは、一般道で強烈に印象付けるのではないかと期待したが、意外にも違った。らしい楽しさが、薄まっていた。

4気筒ターボエンジンは強力で、6速MTも従来どおり喜びを生んでいる。しかし、アクセルペダルの加減によるコーナーでの調整域は狭まり、濡れた路面ではトラクションも限定されていた。

最後に、アルピーヌA110 R。サーキット前提の、ミシュラン・パイロットスポーツ・カップ2というタイヤを履く。純正唯一の設定で、選択の余地はない。

アスファルトが軽く濡れた程度までなら、カップ2は素晴らしい仕事をする。豊かな感触を手のひらへ伝え、鋭くドライバーの意図へ応える。水をかき出す必要がない限り。

A110 Rは非常に機敏で正確。だが、これも進化ぶりを一般道では探りきれない。2日目のサーキットは雨予報。どんな展開が待っているのだろうか。

この続きは、BBDC 2023(4)にて。

記事に関わった人々

  • 執筆

    アンドリュー・フランケル

    Andrew Frankel

    英国編集部シニア・エディター
  • 撮影

    マックス・エドレストン

    Max Edleston

    英国編集部フォトグラファー
  • 撮影

    ジャック・ハリソン

    JACK HARRISON

    英国編集部フォトグラファー
  • 翻訳

    中嶋健治

    Kenji Nakajima

    1976年生まれ。地方私立大学の広報室を担当後、重度のクルマ好きが高じて脱サラ。フリーの翻訳家としてAUTOCAR JAPANの海外記事を担当することに。目下の夢は、トリノやサンタアガタ、モデナをレンタカーで気ままに探訪すること。おっちょこちょいが泣き所。

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