「心を動かす」レストモッド トールマン205 GTi vs プロドライブP25 雨との相性で苦戦のシビック・タイプR BBDC 2023(5)
公開 : 2024.01.01 13:45
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評価を左右する雨のサーキットとの相性
2023年のBBDC選手権で、ベスト3入りは難しいと感じたのが、ホンダ・シビック・タイプR。最新のFL5型は、ドライバーを魅了した先代、FK8型の進化版。期待は非常に大きかったのだが。
前輪駆動の強みが、雨でも発揮されるはずだった。しかし、条件と仕様との組み合わせが、うまく噛み合わなかったようだ。
サスペンションが引き締められ、リミテッドスリップ・デフをロックさせずに、濡れたサーキットの路面へトルクを伝えきれずにいた。高速で駆け回るには、パワーを抑え、高めのギアを選ぶ必要があった。
中速コーナーでは、アクセルペダルの加減でのライン調整も限定的。ホットハッチなら、もっと思いのままに運転したいところ。成長し、大人なハッチバックへ性格が変わったようだ。
シャシーを理想的に働かせるには、相応に攻め込むことになる。結果、グリップを得にくい状況では充分に能力を引き出せない。ホンダが高めたポテンシャルを、もどかしいほど展開できなかった。
「一般道の方が良かったですね」。とディスデイルは残念そうに口を開く。「ステアリングの重さは理想的で、ダンパーの減衰力もイイ感じ。ブレーキも漸進的に効くので、充足感の中で鋭くワインディングを走れました」
「ところが、雨のサーキットではバランスが狂う。アクセルでの調整域も、足りないようでした」
フランケルも不本意そうだ。「残念ですが、ヤラれませんでした」。ステアリングフィールとアンダーステアが、影を落としたと話す。
推移は極めて漸進的 危険性は感じない
同じ前輪駆動のトールマン・エディション205 GTiは、審査員の心を動かした。グリップ力が制限された条件は同じでも、濡れたサーキットへ喰われていない。
旋回時のロールや加減速時のピッチは大きいが、課題を露呈するほどではない。アクセルペダルの角度次第で、コーナリングスタンスを選べる。速度域が高まるほどオーバーステアが強まり、痛快な操縦性を堪能できた。
推移は極めて漸進的で、危険性は感じない。リミテッドスリップ・デフを働かせながら、スピードを保ち、ストレート目掛けてトラクションをかけられる。
車重は895kgと軽く、ブレーキペダルへ伝わる感触も鮮明。ウラカン・ステラートへ迫るほど楽しい。スロットルマップとシフトフィールには、少し改善の余地はあるだろう。だが、体験を濁すほどではない。サウンドにも聞き惚れる。
トールマンの狙いを感じ取れ、その意図がBBDC選手権でも発揮されていた。レストモッドされた40年前のホットハッチが、トップ3入りを果たす可能性も見える。
大きなアウディRS7も、予想外にサーキットで健闘。オンロードでの振る舞いには少々の生ぬるさが拭えなかったが、アングルシー・サーキットでは一転。4ドアの、ポルシェ911 ターボのようだった。
ずぶ濡れのカーブへ綺麗に侵入し、出口では滑らかにドリフトへ持ち込める。一連のプロセスは終始リニアで、グリップからスリップへの推移も滑らか。「想像より遥かに機敏。思いきって振り回せます」。とバプラートが笑顔で話す。