ロータス・エリーゼS
公開 : 2012.12.18 18:08 更新 : 2017.05.29 19:25
エリーゼというクルマを掻い摘んでひとことで説明するのは、そう難しい仕事ではない。それはアルミで作った初代MR2である。
身も蓋もない言い方をするとそうなるエリーゼのパッケージは、やはりMR2に似ている。まず、量産FF車の横置きパワートレインを流用したがゆえに、ミドシップとはいえその位置は後輪直前になり、結果リヤヘビー傾向を有する。鋼板モノコックでなく軽いアルミ応力担体にして、おまけにパワートレインを抱くサブフレームを鋼製にしたため、実はMR2よりも更にリヤヘビーになった。横に長くわだかまるパワートレインゆえ、リヤサスのアーム長が長く採れないところは両車とも同じである。応力担体を、アルミ押し出し材を両脇に配する単純な形状にしたため、フットウェルは割を食って、右ハンドルならではのペダルオフセットもエリーゼは明確だ。理想的なミドシップスポーツカーどころの騒ぎではない。
だが、そこから先がエリーゼはMR2とは違った。基本設計が規定する不利を、要素設計と仕立ての術でロータスは躾け直してみせたのだ。リヤのロールセンターを高く採って、それにロール抑制を専ら任せ、スタビを廃してばねは柔らかくする。これはパワー不足でリヤを振り出すまでの能力はないエンジンを逆手に取った方法論で、進入時の軽快なターンインを走りの売りにせんとする狙いだったはず。実際、700kg台だった初期型のエリーゼは、車重の絶対的軽さがそれと相まって我々を瞠目させる機動性を実現していた。
そんなエリーゼは、大規模フェイスリフトを伴うフェイズ2への移行と前後して、直4がローバー製からトヨタ製に替わってエンジン重量も馬力も増えるのに合わせ、シャシーの仕立てにひと技かけてきた。前輪を細くしたのだ。これにより前後バランスは明白なリヤ優勢になった。追い込んでも後輪は粘り続け、先に前輪が負ける特性がこれで生まれた。それはエンジン換装への備えとも受け取れたが、真相はクローズドルーフに改造されたエキシージに乗れば分かった。そちらは前輪は以前と同じ太さで、走りも依然として機動性に特化した方向に仕立てられていた。そちらに対して、エリーゼは、安全に速さを楽しむモデルとの位置づけに収まったのだ。
前後ライト周りなどにお化粧直しを施されたこのフェイズ3も、基本的にその方向性は変わっていない。理由のひとつは、さらなる馬力の増大だろう。エリーゼSを名乗るモデルのエンジンは、以前のSCと同じ位置づけで、トヨタ製1.8ℓ機械過給直4を載せるのだが、それは2ZZ-GE型から2ZR-FE型にアップグレードされて、最大トルクも21.4kgmから25.4kgmへと向上したのだ。ちなみに車重は今や950kgとなり、ちょうど初代MR2と同レベルの数字になってしまっている。