アウディS6 サルーン/アバント
公開 : 2012.12.18 18:51 更新 : 2017.05.29 18:18
操縦性も分かりやすかった。鼻先に重いエンジンをぶらさげるアウディ縦置き系車輛は前輪の負担が大きく、そこにアシを柔らかく動かすエアサスを装備すればフロントの対地キャンバーは崩れやすくなり、このS6はその理屈どおりにフロントのロールアンダーが明瞭である。それを救うのが、まず新しいセンターデフと、その差動制限装置である。アクセルを踏んでそれにトルクを流し込むと、後輪にトルクが移動して前輪の負担が減り、さらには後輪が車体を前に押し出す動きが出てくる。ここで出番を迎えるのが、RS5に続いて投入されたリカルド製の電制リヤLSD。通常の電制LSDと異なり、外輪を増トルクするのみならず増速させることも出来るこのデバイスにより、リヤそれ自身が回り込む動きを形成するのだ。つまりS6は、進入アンダーから踏んでニュートラル方向に復帰していくという一貫したプロセスで事が運び、しかもその移行は同じ構成をもつランサー・エボリューションとは違って控えめで漸進的であって、通常の後輪駆動車に慣れた身にも直感的に把握しやすいものになっている。
実は、そのパワーオン脱出のプロセスで、セダンとアバントに違いが出る。リヤが重く、またその重さを支えるべく若干アシが固め気味になっていると思しきアバントは、リヤ内輪が浮いて空転気味になる機会が少なく、そのぶんアクセルオンのタイミングを速くすることができた。つまりアバントのほうが明らかに“踏める”のである。
惜しむらくは、ツインクラッチ自動変速機が、辛口モードの際もレブリミット手前で勝手にシフトアップしてしまうこと。差動制限機構は入れるトルクに応じて仕事をする仕掛けだから、旋回中にシフトアップが起きて流れるトルクが減ると、旋回特性まで変化するのだ。これは制御内容を変えれば済む話なので、早急に改善してほしい。
結論としてS6は、ある得べきところに着地したモデルになっていると思う。その着地点は、苛烈過ぎるまでには至らない豊富な加速能力を、穏和なシャシーに組合せて、入り口も奥行きも同時に広げたワイドレンジな高性能サルーン/ワゴンといったところ。最強版RS6が追加された後でも、この立ち位置は意味を持つはずだ。
(文・沢村慎太朗 写真・花村英典)
アウディS6
価格 | 1180.0/1210.0万円 |
0-100km/h | 4.6/4.7秒 |
最高速度 | 250km/h |
燃費 | 10.4/10.3km/ℓ |
CO₂排出量 | 225/226g/km |
車両重量 | 2020/2060kg |
エンジン形式 | V8DOHCツインターボ, 3992cc |
エンジン配置 | フロント縦置き |
駆動方式 | 4輪駆動 |
最高出力 | 420ps/5500-6400rpm |
最大トルク | 56.1kg-m/1400-5200rpm |
馬力荷重比 | 208/204ps/t |
比出力 | 105ps/ℓ |
圧縮比 | 10.1:1 |
変速機 | 7段DCT(Sトロニック) |
全長 | 4930/4940mm |
全幅 | 1875mm |
全高 | 1445/1475mm |
ホイールベース | 2910mm |
燃料タンク容量 | 75ℓ |
荷室容量 | 530/565-1680ℓ |
サスペンション | (前)ダブルウィッシュボーン |
(後)トラペゾイダル | |
ブレーキ | (前)Vディスク |
(後)Vディスク | |
タイヤ | 255/35R20 |