メルセデス・ベンツA45 AMG vs ルノー・メガーヌR.S.275トロフィー-R
公開 : 2014.11.19 23:50 更新 : 2021.03.05 21:35
テスト車両には可変ダンパーが装着されていないため、ゴルフRのような落ち着きはない。特に路面の大きめな継ぎ目を踏み越えるときは、露骨にその凹凸を伝えてくることがある。
しかしながらシートはとても素晴らしく、ステアリング・ホイールやダッシュボードのデザインは高級感を与える大きなキーとなる。一般道にもどれば、どっしりと構えた車体から醸し出す、狂気的な炸裂感をいとも簡単に引き出せるあたりはさすがである。
チッピング・ワーデンの王立空軍の敷地近くで、メガーヌに乗り換えることにした。60年前、空軍の訓練生はビッカース・ウェリントンに乗り、ここから真っ暗な夜空に飛び立っていったのだそうだ。
後ろからA45を追いかけてみると、アイドリングの回転域ちかくでも、なかなかの騒々しさであることがわかる。と同時に、贅沢なA45から一転して、簡素なトロフィー-Rのインテリアは寂しくも感じられる。
快適性はピカイチだ。高価なオーリンズ製の足回りのおかげで、低速からの凹凸の吸収は見事なものだし、速度が増していけばさらに落ち着く。またA45よりメガーヌが明らかに遅いと感じられるようなことはあまりない。
どうやらメガーヌの細かな部分がそう感じさせるのかもしれない。ペダルを踏んだ時の音やショート・シフトが、思いのほかレーシーな印象を与えるのだ。A45の場合、0-100km/hの最速タイムを出すにはローンチ・コントロールを使用しなければならないというのも大きいかもしれない。事実、パワー・ウエイト・レシオの観点で見れば、トロフィー-Rはほかのライバルよりも非力なのだが、細かな所作から与えられる感覚的な印象が大きいようだ。
ただしキャビンの熱気や、レース用のシートベルトによる不快感は無視できない。常に息苦しく感じられるのだ。遮音性も通常のモデルよりも低いため、風切り音やロード・ノイズは我慢するほかない。これらを紛らわすラジオさえついていないのだから致し方ない。筆者自身の重量も、トロフィー-Rに乗った間に減っていたかもしれない。それくらいに硬派なクルマだということがわかった。
2日目
この日はイングランド中東部にあるリンカンシャーからはじめることにする。太陽が顔を出し、しかも一日中晴れ間が続いた。つい先日、MIRAサーキットでテストをおこなった際には路面が水浸しで、タイヤが言うことを聞いてくれなかっただけに幸いである。
ドライ路面のおかげで、サーキットのタイムも周回を重ねるごとに縮んでいった。まさにトロフィー-Rのような、’結果主義’ のクルマにとっては最高の天気である。A45より速く走るのではなく、明確に速く走る、というのがトロフィー-Rの使命とも言えるからだ。
基準を定めるためにA45をまず最初に走らせた。数周走ったのちのベスト・ラップは1分14秒9。