3年弱に26台の「超」希少車 戦後のブガッティの空白を埋めたかも? アタランタV12(2)
公開 : 2024.01.20 17:46
裕福な人々の心を捉えたアタランタ
他方、4シーターのドロップヘッド・クーペは、第二次大戦後の1946年にEJB 540のナンバーで再登録された車両。5名のオーナーを経て、1998年にアメリカへ輸出されたが、2012年に英国へ戻ってきた。
現在のオーナーは、同じくウォード家。メカニズムなどはレストアされているが、ボディやインテリアからは経過した時間も香ってくる。アタランタV12の本来の走りを、しっかり味わうことができる。
ソフトトップを開くと、リンカーン・ゼファーへ似たエグゾーストノートが耳へ届く。戦前の一般的な英国車とは、まったく異なる聴覚体験だろう。
ギア比は短く、シフトレバーは滑らか。ブレーキとクラッチはフロア・ペダルだが、アクセル・レバーはダッシュボード側。発進させてみると、扱いやすく速い。
100km/hまで活発に加速し、それ以上のスピードでも余裕を感じる。直列4気筒からV型12気筒への置換を提案した、ナイジェル・ボーモント・トーマス氏の狙いが体現されている。
ステアリングホイールは、切り始めの遊びが多いものの、以降は小気味よく反応し不安感はない。乗り心地もかなり良い。インボード・ドラムブレーキが、バネ下重量を小さくしている効果だろう。
かくして、85年前のアタランタV12は、極めて魅力的な存在だったことは想像に難くない。当時の裕福な人々の心を、しっかり捉えていたことだろう。
もし、同社がクルマを作り続けていたら。ブガッティが戦後に作った空白期間を補完する、英国の上級ブランドとして、成長を続けていた可能性も否定できない。
協力:ジュリアン・ブラウン・クラシックカー・コミッションズ社、アリスター・ウォード氏、ソール・スティーブンス氏
番外編:アタランタの戦後 ブランド復活へ
大戦の終りが見えつつあった1944年、レーシングドライバーのリチャード・ゲイラード・シャトック氏がアタランタV12のシャシーへ注目。スーパーチャージャーで過給する、V型16気筒のルック・マリーン・エンジンを搭載した、特別仕様を作っている。
ブランドへの関心を強めたシャトックは、戦前のアタランタ・オーナーのために、残っていた部品を購入。アフターサービスを買って出た。一方、アタランタ・モーターズ社自体はポンプの製造へ本格的に移行し、自動車事業へ復帰することはなかった。
さらに彼は、自らのイニシャルを加えた、RGSアタランタとして商標権を獲得。ロンドンの北、ブルックサイドに構えたガレージで、9台から12台を提供している。また、アマチュアのためのチューニング用キット・パーツの提供で、事業を成長させた。
1950年代に入りFRPが普及すると、RGSアタランタは独自ボディを製造し、欧州や北米市場へ展開。TVRなど一部のメーカーは、RGSアタランタのボディをオプションとして設定していた。しかし、1960年代に工場は売却されてしまう。
半世紀後の2012年、マーティン・コーフィールド氏が、2シーターボディへ現代的なフォード製2.5L 4気筒エンジンを搭載した、新生アタランタを発表。英国の少量生産モデル規格へ準拠させつつ、往年のデザインのまま復刻生産されるに至った。
アタランタV12(1937〜1939年/英国仕様)のスペック
英国価格:740ポンド(新車時)
生産数:26台
全長:4470mm
全幅:1650mm
全高:−mm
最高速度:164km/h
0-97km/h加速:12.0秒
燃費:7.1km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1321kg
パワートレイン:V型12気筒4379cc 自然吸気サイドバルブ
使用燃料:ガソリン
最高出力:113ps/3900rpm
最大トルク:24.8kg-m/400-3500rpm
トランスミッション:3速マニュアル(後輪駆動)