翼を切られても走りは鮮烈 ジャガーXE SVプロジェクト8 ツーリングに試乗
公開 : 2019.10.05 09:50
ジャガーXEに大幅な手が加えられたプロジェクト8に、より公道仕様のセッティングが施された「ツーリング」が登場しました。大きなリアウィングはなくなっても、走りのポテンシャルはそのまま。わずか8台限定の特別バージョンを英国で評価しました。
販売の振るわないSVプロジェクト8を加勢
ニュルブルクリンクで4ドア量産型セダン・カテゴリーのラップレコードを打ち立てた、ジャガーXE SVプロジェクト8の販売が振るわないようだ。300台の限定生産なのだが。残りの販売台数をこなす中で、極端なスパルタンさは求められていないと判断したジャガー。一般道向けに味付けし直された、「ツーリング」を追加した。
目立って新しい部分は少ない。ボディの後ろにそびえていた巨大なリアウィングが外され、テールゲートに控えめなリップスポイラーが取り付けられている。リア周りの空力性能の変化に合わせて、フロントには新デザインのスプリッターも追加された。
少なくなったダウンフォースを考慮し、最高速度は322km/hから299km/hに下げられている。後部座席は残され、ロールケージが組まれるトラックバックのオプションは選択できない。ほかの部分は基本的にサーキット前提の特注マシン、プロジェクト8と同じ。大きく膨らんだフェンダーはそのままだし、標準のXEと共通するボディパネルはルーフとドアのみとなる。
スーパーチャージャーで過給される5.0LのV8エンジンが発する最高出力は600ps。8速ATを介して4輪を駆動する。フロントトレッドは24mm、リアは73mmも広げられ、サスペンションは前後ともにダブルウイッシュボーン式だ。
アダプティブ・ダンパーとアンチロールバー、アルミ製のサスペンション・ナックル、ボールジョイントなどは一般道向けに再調整を受けている。ミシュラン・パイロットカップ2タイヤを履くアルミホイールは20インチ。巨大なカーボンセラミック・ブレーキの存在感も凄い。
オリジナルと遜色のないパフォーマンス
乗った印象としては、これまでのサーキット仕様と大きな違いは感じられなかった。そもそもXE SVプロジェクト8は、1757kgもある車重や大きなボディを持っていながら、魅力的なロードカーでもあった。高速走行も安定しておりバランスにも優れ、ほかとは一線を画す魅力的な走りが味わえた。
低速域での乗り心地は硬く、路面の細かな起伏もすべてボディに伝えることは確か。それでもアダプティブ・ダンパーは不快な鋭い突き上げを丸く削り取り、我慢できない振動ではない。スピードを上げるほどに路面の凹凸を上手に処理し、タイヤが路面を掴む感覚を伴って、充分しなやかに走らせることができる。快適に、とさえいえるほど。
パイロットカップ2の柔らかいゴムが生むグリップ力も、乾燥路面では計り知れないほど高い。限界領域まで踏み入れなければ、タイヤを打ち負かすことは不可能だろう。シートとステアリングには充分なフィードバックが伝わってくるから、グリップ任せで単調に感じられる走りでもない。
電動パワーステアリングはクイックで正確。ポルシェ911GT3ほどコミュニケーション豊かではないが、タイヤの状態はアルカンターラのステアリングを通じて把握できる。4輪駆動システムは、バランスの高さとドライバーが介入できる自由度とのバランスに優れ、コーナリングも積極的に楽しめる。
派手なエクステリアほど、リアタイヤを自由に振り回せるタイプではない。しかし常に充分なトルクがリアタイヤに伝達されているから、ステアリングとスロットルの操作で、コーナリングラインの調整も難しくはない。パイロットカップ2の特性として、濡れた路面ではスタビリティコントロールを効かせていても、気をつけた方が良いだろう。