メルセデス・ベンツ500E(W124) 前編 ポルシェが作ったモンスター
公開 : 2019.10.12 08:50 更新 : 2021.10.09 22:47
メルセデス・ベンツ500E(W124)のことが、心底お好きなかた、多いでしょう。前編では、このクルマの歴史、周辺事情について振り返ります。スペックだけでは伝わらぬ魅力も。
500E 怪物たちの末裔として
ブガッティ・ロワイヤル、フェラーリ250GTO、シトロエンDS、マクラーレンF1……。
自動車の世界に革命を起こした伝説的な作品たちの延長線上に、端正なノッチバックボディの4ドアセダンがいる。
傑作と言われ、今なお多くのファンに愛されるメルセデス・ベンツ500E。W124型ミディアムクラスのモデルライフ後期に登場し、あらためてW124シャシーの潜在能力の高さを強く印象付けた特別な1台である。
開発と生産にポルシェが深くかかわったこと。本来は直列エンジンのために設計されたエンジンベイ一杯に5LのV8を詰め込んだこと。エアロではなく前後フェンダーのフレアによってW124でありながら、「らしからぬ」雰囲気を醸し出していること……。
500Eが特別視される理由はいくつもあるが、このクルマを不世出なものにしている理由は物理の裏にある精神的なもの。
今日では極めて理性的なブランドとして知られているメルセデス・ベンツの歴史の奥深くに眠っている狂気が、この4ドアセダンに滲み出ているからではないだろうか。
メルセデス・ベンツの歴史の中で、W124 E50型500Eの精神的な祖先と言えるのは、戦前のグローサー・メルセデス(770K)や、1970年前後の300SEL 6.3といった怪物たちなのである。
伝説の1台、ポルシェとの共作
現役当時から傑作と呼ばれたメルセデス・ベンツW124のデビューは1983年のこと。
ガソリンとディーゼルとも排気量によるバリエーションは多かったが、それでもモデルライフ前半は4気筒と6気筒という直列エンジンしか搭載していなかった。
ところが1990年にマイナーチェンジが行われた1年後、異変が起こる。
サッコプレートによってモダンな印象になったボディにV8エンジンを積んだモデルが追加されたのである。
5L V8の500Eと、それに続いてデビューした4.2Lの400Eである。400Eの外観は普通のミディアムクラスと同じだったが、500Eは片側で3センチほどワイド化されたフェンダーを装備することで凄味を増していた。
車幅が広がった理由は標準のW124が履く6.5jから8Jまで拡大されたホイールを収めるため。一方タイヤのサイズアップはV8エンジン搭載による200kg以上にもなる重量増とパワーアップとバランスを取るためだ。
W124のエンジンベイに500SL(R129)のパワートレインを搭載しモンスターセダンを作るというのはメルセデス自身が描いた青写真だった。
だが実際の開発は当時業績が振るわなかったポルシェに託され、生産も500Eの前期型(1990~1991年)のファイナルアッセンブリーはポルシェのツッフェンハウゼン工場で行われている。
メルセデスとポルシェの共作というエピソードもまた、初代500Eの伝説化に一役買っているのだ。