【アウディ・クワトロとランチア・デルタ】ラリーで鍛えた高性能マシン 前編

公開 : 2020.04.26 07:20  更新 : 2020.12.08 11:05

ラリーステージが育んだアウディ・クワトロとランチア・デルタ。天候や路面を選ばずに圧倒的なスピードを楽しめる、新ジャンルの高性能モデルを確立したといえるでしょう。誘引力も価格上昇も止まらない2台を、比較します。

ラリーへ4輪駆動を持ち込んだクワトロ

text:Chris Chilton(クリス・チルトン)
photo:Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
誕生当初から際立った存在を狙うことは難しいが、カリスマ性を備えたクルマとなるには、初めが肝心だ。

アウディ・クワトロは、初めての高性能な4輪駆動クーペというわけではなかった。ちなみにクワトロといっても、今のアウディの4輪駆動システムのことを指すわけではない。

アウディ・クワトロ 10V/ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V
アウディ・クワトロ 10V/ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V

4輪駆動にV8エンジンを搭載したジェンセンFFは、クワトロより15年も早く誕生している。だが販売台数は伸びず、1971年に消滅した。

その10年後、アウディは同様のコンセプトを2輪駆動が主流だったラリーステージへ投入。優れた競争力で席巻し、モータースポーツとスポーツカーの成り立ちを変えることになる。

ポルシェ917にも関わったフェルディナント・ピエヒの指示により、オフロード走行に優れた技術として、4輪駆動のラリーカーを考案したアウディ。影響を受けたランチアも、4輪駆動のデルタS4を生み出す。

ドイツのアウディが挙げた世界ラリー選手権(WRC)での2度のマニュファクチャラーズ・タイトルに対し、イタリアのランチアは通算で6度も獲得。ドライバーズ・タイトルは、アウディの2回に対し、3回獲得している。

1980年代から1990年初めに作られた比較されがちな記録だが、アウディ・クワトロとランチア・デルタは、ラリーステージで直接競い合ってはいない。巨大なフロントスカートを持つ、ショート・ホイールベースのスポーツ・クワトロが誕生するものの、グループB時代の終焉とともに姿を消してしまう。

グループBからグループAへ

早く生まれたアウディ・クワトロは、グループB以前の、グループ4の規定に合わせた設計。プジョー205 T16やランチア・デルタS4など、初めからグループB規定で生まれたスーパーマシンに苦戦を強いられた。いずれも名前は市販車と共有するものの、ミドシップのラリー専用マシンだ。

ところが競争が激しくなりすぎ、1987年にグループBが廃止される。1986年の世界ラリー選手権ツール・ド・コルスで、デルタS4をドライブするヘンリ・トイヴォネンがコースアウトし炎上。死亡する事故も、廃止へと導いた理由の1つ。

アウディ・クワトロ 10V/ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V
アウディ・クワトロ 10V/ランチア・デルタHFインテグラーレ 8V

WRCはグループAと呼ばれる新しい規定で再構成されるが、再びレースをリードしたのはランチア。初期のアウディ・クワトロと同様に、ランチアもディーラーで購入できる量産モデルに近いマシンとなっていたのが特徴だ。

それから30年が経った。アウディ・クワトロとランチア・インテグラーレは、どちらも強く心に響く。オーナーとなるのに必要な費用も同じくらい。

2台ともパーマネント式の4輪駆動を備え、気象条件を問わない走りを叶えている。だが、4シーズンのデイリークラシック、毎日乗れるクラシックモデルとして、どちらがベストだろうか。

今回は英国西部、ブレコン・ビーコンズで乗り比べる機会を設定した。かつてのRACラリーのルートからも、そう遠くはない場所だ。

赤いハッチバックは、スティーブン・ジェフリー・ブラッドリーが所有する8バルブのランチア・デルタHFインテグラーレ。白いクーペは、ダロン・エドワーズがオーナーの、10バルブのアウディ・クワトロだ。

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