【改めて探るF1の魅力】今年で70周年 なぜ自動車メーカーは、フォーミュラ1に一生懸命になる? 前編
公開 : 2020.05.30 20:50 更新 : 2021.07.12 18:32
新型コロナウイルスによって開幕延期を余儀なくされている2020年のF1ですが、今年は70周年の記念すべきシーズンとなります。1950年のスタートからその歴史を振り返りつつ、自動車メーカーを惹きつける秘密を探ります。
変わるものと変わらぬもの
70年前の1950年5月13日、シルバーストンに集まった21台のレーシングマシンがエンジンの咆哮を響かせながら、イギリスGPのスタートとモータースポーツ新時代の幕開けを待っていた。
そして、その2時間13分23秒後、13年落ちのアルファ・ロメオ158を駆るジュゼッペ・ファリーナがフィニッシュラインを通過すると、この43歳のイタリア人レーサーはF1世界選手権開幕戦の勝者としてその名を歴史に刻んでいる。
現在ルイス・ハミルトンが保持するワールドチャンピオンのタイトルを初めて掴むことになるファリーナにとって、これが1950年シーズンに行われた7選中3勝を上げたうちの最初の勝利だった。
もちろん、シルバーストンでファリーナが初勝利を飾った70年前から、ハミルトンが6度目のタイトルを獲得するまでには多くの変化が起こっている。
初期のF1マシンは決して最先端技術の結晶などではなく、戦前のレースカーを少し改造しただけのものであり、1950年の舞台となったシルバーストンもワールドクラスのサーキットというよりは、さびれた元英国空軍の飛行場にわら俵とロープで急ごしらえのコースを設置しただけの場所だった。
それでも、新型コロナウイルス感染拡大に揺れる2020年のいまその様子を想像することは難しいかもしれないが、12万人ものファンも詰めかけていたのだ…
だが、よく見れば変わっていないものの数多くある。
グリッドに並んでいたのは当時を代表する偉大なレーサーたちであり、彼らが操るのも確かに年代物ではあったが世界最速のマシンだった。
そして、集まった12万人のファンはシルバーストン周辺に大渋滞を引き起こしてもいた。
繰り返される参入と撤退
だが、なんと言っても変わらないのは、グリッド上に混在していたのが英国の勇敢なプライベーターたちと、アルファ・ロメオにマセラティ、そしてタルボ・ラーゴといった資金力のあるワークスチームだったということだろう。
そして、いまと同じくレースを席捲したのは、自らの思い通りにこのモータースポーツを操るべく、喜んで大量の資金を投じ、自分たちの影響力を行使しようとするこうしたワークスチームだった。
フェラーリは賞金を巡る言い争いのなかでレースをボイコットしており、それは70年経ったいまも変わらない。
これまでの70年間でF1世界選手権は急速に発展し、いまや世界でもっとも人気あるスポーツのひとつになるとともに、その価値は数十億ポンドにも達している。
この間このモータースポーツは自動車業界と奇妙な緊張関係を維持し続けてきたのであり、自動車メーカーは自らの目的を達成すべくF1に参戦しては撤退するということを繰り返してきた。
1950年と1951年のタイトル獲得後に撤退したアルファ・ロメオに続き、1954年に参戦すると翌1955年シーズンを席捲したメルセデス・ベンツも、同年のル・マンで起きた事故の影響から、この年をもってすべてのモータースポーツ活動を休止している。
メルセデスのワークスとしてのF1復帰は2010年まで待たねばならなかった。
この間にはBMWやフォード、ホンダ、さらにはルノーといった自動車メーカーが勝利を飾ったり、エンジンサプライヤーやワークスチームとしてタイトルを獲得している。
さらにはプジョーやランボルギーニ、そしてトヨタもF1に引き寄せられ大金を投入しているが、残念ながら満足な結果を残すことなく撤退を余儀なくされている。