【ストリートレースを彩った2台】シボレー・コルベット C2とジャガーEタイプ 前編
公開 : 2020.07.19 07:20 更新 : 2022.08.08 07:38
1960年代のアメリカで速さを競い、人気を二分した米英のスポーツカー。シンプルで手に届きやすい価格のコルベットと、ル・マン・レーサー譲りの容姿で高価だったEタイプ。アイコンと呼べる2台に、英国編集部が試乗しました。
英国と米国の伝説といえるライバル関係
スティングレーで通りを流していると、ジャガーXK-E、Eタイプが右から追い越していった。ラジオから流れるのは、最新のヒットチャート。だが、心に思い浮かぶ1曲は、ジャン&ディーンが歌う、デッドマンズ・カーブだ。
5400ccのシボレー製V8エンジンのサウンドでさえ、頭の中で繰り替えされる歌詞をかき消すことは難しい。ロサンゼルスの南、パロス・ベルデスの丘を越えて、メタリックブルーのEタイプを追いかける。
ジャガーがシフトダウンする度に、コルベットの長いボンネット越しにエグゾーストノートが響いてくる。1960年代に生まれた、英国と米国の伝説ともいえるライバル関係が、今ここにある。
ジャン・ベリーとディーン・トーレンスが歌ったヒット曲は、熱く、不運な結末に至ったストリート・レースを描いたもの。空想でつづられた歌詞だったかもしれないが、ロサンゼルスだけでなく、アメリカ各地で実際に繰り広げられていた競い合いだった。
1960年代、北米には高性能スポーツカーの選択肢がほとんどなかった。多くのドライバーは、美しいボディをまとった高価でエキゾチックなジャガーEタイプか、1963年に登場したシボレー・コルベット・スティングレーの2台を、天秤にかけることになった。
ジャガーEタイプは1961年にジュネーブ・モーターショーで発表されると、いち早く北米上陸を果たす。最高速度240km/hという性能は、強い注目を集めた。
軽量なシャシーに有機的なボディ
直線の一切ない、有機的なカーブを描くボディが、見るものを興奮させた。カーデザイナーのマルコム・セイヤーは、ル・マン優勝マシンのジャガーDタイプとの結びつきの強いスタイリングを、公道モデルへ与えた。
Eタイプ、北米ではXK-Eと呼ばれるスポーツカーは、レーサーとして生まれたわけではない。しかし、Dタイプとの共通性は少なくなかった。最も大きな特徴が、軽量なモノコック構造。従来のセパレートシャシーのXKと比較して、段違いの剛性を得ている。
Eタイプのシェル構造は、薄いスチール材で組まれたボックス・セクションでできている。両端まで伸びる中空のメンバーで補強され、リア・サスペンションは4本のコイルで支えた。
フロントは、3ピースのクラムシェル・ボンネット。その内側には軽量なレイノルズ製541パイプで組まれたサブフレームが固定され、エンジンとフロント・サスペンションが取り付けられている。
驚くことにエンジンは、Eタイプ用に開発されたユニットではない。1948年に登場したXK120にも積まれたユニットで、その後40年ほども生産されることになる代物だった。
ウィリアム・ヘインズが設計したDOHCの直列6気筒は、Eタイプに積まれる頃には排気量を3781ccまで拡大。ストレート・ポート構造を持つアルミニウム製ヘッドは、Eタイプの先代、XK150Sと同じ構造だ。
得られた最高出力は268psで、最大トルクは35.8kg-m。空力に優れる固定ルーフのEタイプなら、240km/hの最高速度と0-97km/h加速を7秒以下でこなすのに、充分なパワーだった。