【ストレート6の味わい】BMW 635CSi ジャガーXJ-S 3.6 ビッターSC 3種のビッグクーペ 前編
公開 : 2020.12.05 07:25 更新 : 2020.12.08 00:18
直列6気筒エンジンを搭載した、1980年代のビッグクーペ。美しいBMW 635CSiとジャガーXJ-Sはご存知の方も多いと思いますが、ビッターSCを知る人はほとんどいないのでは。異なる最後をたどった3台を、ご紹介しましょう。
2ドアクーペはエモーションで買うクルマ
2ドアクーペは、エモーションで買うクルマだ。スタイリングの魅力や珍しさ、イメージが、実用性よりも優先される。
容姿の美しさでパッケージングの妥協を穴埋めし、個人的な欲求を満たしてくれる。オーナーの多くは認めないかもしれないが、ビッグクーペとはそんなクルマだと思う。
ハンサムな2ドアクーペは、オーナーが実用的なサルーンを選択しなかったという事実を、暗黙的に伝える。低いルーフラインの長いドアを開いて降りてくる姿は、リッチでセクシーに見える。
2ドアクーペは、自動車メーカーにとっても4ドアサルーンとは違った意味を持つ。車内スペースが減り、視認性も若干悪くなり、ボディの鉄板も少なくて済むが、特別感が高価な値段を正当化できる。
クーペの方が、サルーンより速いようにも見える。間違いではないかもしれないが、かつてのモデルでは特に、そんな保証はない。洗練された兄弟モデルのサルーンと比べて、クーペの磨き込みは充分ではなく、錆びやすいことも少なくなかった。
こんな理屈を並べていても、筆者は2ドアクーペの強いファンだ。1970年代に存在したフォード・グラナダ・ギアも、トヨタ・クラウンの2ドアハードトップも、より上級な雰囲気を漂わせていた。
1970年代の終わり、特に上級志向を体現したモデルが、ジャガーXJ-SとBMW 6シリーズだろう。2台は、13年間に渡ってライバル関係にあった。
期待通りに小綺麗で華やかな6シリーズ
フランスのカーデザイナー、ポール・ブラックがデザインを手掛けたBMW 630CSと633CSiは、バイエルン・ブランドに期待されていた通りの、小綺麗で華やかさのあるクーペ。1978年に登場した635CSiが、その主役となった。
当初3453ccの直列6気筒エンジンは218psを発揮し、225km/hの最高速度を与えた。初期のボディ製造を手掛けたのはカルマン社で、サビに悩まされた。基本的なシャシー構造はE12型や、1982年以降はE28型の5シリーズと共有している。
サスペンションは、リアがセミトレーリング・アーム式、フロントがマクファーソン・ストラット式を採用。当時のBMWとしても、古典的な構造といえる。
一方、Eタイプの後継モデルというより、グランドツアラー的な内容だったこともあってか、ジャガーXJ-Sは快調なスタートを切れずにいた。大排気量のV型12気筒エンジンを搭載し、燃費は3.9km/Lと、日常的に乗れないほどの大食漢だった。
当時の自動車評論家は認めなかったものの、燃費と車内空間、細部の仕上げを除いて、実際はXJ-Sの方がBMW 6シリーズを上回っていた。非常に静かに走る2+2の豪華なクーペの最高速度は、241km/hに届いた。
ジャガー製スーパーカーともいえたが、虚栄心のある多くの人はイタリア製V型12気筒を選んだ。XJ-Sは、売れなかった。
低い信頼性というイメージも、XJ-Sには付きまとった。効率を高めたV12HEが登場し、ジャガーの指揮を取ったジョン・イーガンが品質改善を強く進めたことで、徐々に改善されつつあったが。