【売れないクルマを作る訳】なぜトヨタは燃料電池車のミライを作るのか? ビジネスとして成立する理由とは
公開 : 2020.12.26 08:25 更新 : 2021.10.09 23:42
トヨタは新型ミライを発表しました。しかし、2019年に売れたFCVはたったの624台。売れなくても「売れないクルマ」を作る確かな理由があったのです。
実際には売れていないミライ
2020年12月、トヨタより第2世代となる新型ミライが発売された。水素を燃料とするFCV(燃料電池車)の第2世代モデルとなる。
価格こそ710万円~805万円と、先代とあまり変わらないが、航続距離は先代比プラス30%の約850kmとなっている。内容が進化しただけでなく、スタイルも洗練された、よりスマートなものとなっている。
しかし、実際のところミライを含むFCVは、ほんのわずかしか売れていない。現在、日本で発売されている国産FCV乗用車は、トヨタのミライとホンダのクラリティ・フューエル・セルの2台のみ。
日本自動車販売協会連合会の発表する燃料別販売台数を見ると、2019年の1年間で売れたFCVは、わずか624台。過去5年ほどでも年間で1000台を超えたのは2016年の1055台だけで、例年は数百台規模に留まる。正直、ビジネスになるとは思えないほどの少なさだ。
では、なぜトヨタやホンダはFCVを作り続けているのか。その理由は明快だ。それは「水素社会の実現」は、日本政府の方針だから。
トヨタやホンダという各メーカーの方針ではなく、日本国の方針なのだ。直近の政府が発表した「第5次エネルギー基本法」(平成30年7月発表)にも「2030年に向けた基本的な方針と政策対応」として「水素社会実現に向けた取組の抜本的強化」とある。
モビリティだけでなく、家庭用や水素発電、国際的な水素サプライチェーン(供給網)、地産地消型水素サプライチェーンでの地方創生などの方針が示されている。また、延期となってしまったが「東京2020五輪での『水素社会』のショーケース化」も計画されていたのだ。
つまり、トヨタのミライや燃料電池バスのソラは、国の方針に則って開発された車両であったのだ。
「水素社会」になると何が良いのか?
「水素社会」とは何かと言えば、石油や電気のように、水素もエネルギーのひとつとして活用する社会となる。では、水素をエネルギーに使うと何が良いのであろうか。
それは、「低炭素化の実現」、「技術による経済発展」、「エネルギー自給率の向上」が挙げられる。水素をエネルギーとして利用するには、「そのまま燃やす」もしくは、「FCスタック(燃料電池)で発電する」という2つの方法が考えられる。
どちらにせよ、そこから二酸化炭素は発生しない。また、水素を再生エネルギーなどの電力から作れば、製造から使用までを通して、CO2排出量ゼロになる。つまり、水素エネルギーを使うほど、CO2排出を減らすことにつながるのだ。
また、水素を電力に変換するために使われるFCスタックにはプラチナ(白金)が使われている。プラチナはジュエリーとして使われるほど高価なもの。だからこそ、いかにプラチナの使用料を減らすのか、もしくは代替材料を見つけるかが、FCスタックの開発の主眼だ。
そして、現在のところ開発はまだまだ道半ば。逆に言えば、トヨタやホンダが低コストのFCスタックの開発に成功すれば、その技術が世界をリードすることになる。つまり、大きなビジネスになるということ。
さらに水素は、電気分解で水から手に入るし、天然ガスや原油からも作ることができる。そして再生可能エネルギーの活用拡大にも可能になる。エネルギー自給率がわずか7%ほどの日本としては、水素を活用することで、エネルギー・セキュリティを高めることにもつながるのだ。