【ユーザー・メリット少ない】日産ノート 燃費スペシャルにご用心 不毛な「数値」競争、いつまで続く?

公開 : 2021.01.10 05:45  更新 : 2021.10.09 23:41

燃費を基準にクルマを選ぶ消費者は多いはず。ところが、新型ノートには燃費に特化した不思議なグレードが……燃費スペシャル・グレードの存在意義を問います。

燃費スペックに特化したスペシャルなグレード「F」

text:Kenichi Suzuki(鈴木ケンイチ)
editor:Taro Ueno(上野太朗)

昨年(2020年)の暮れに日産の新型コンパクトカーであるノートの発売がスタートした。

ノートといえば、2017年から2019年にかけて3年連続で国内販売の暦年コンパクトカーでナンバー・ワンを記録するほどのベストセラーカーだ。日産としては、当然、販売にも大きな期待をかけているはず。そうした日産の気合の入りようは、そのグレード編成から見て取ることができる。

日産ノート X
日産ノート X

それが「F」というグレードの存在だ。ノートの基本となるFFモデルは「F」、「S」、「X」という3グレード編成になっており、後に追加された4WDモデルは「S FOUR」と「X FOUR」。つまり、「F」はFFグレードにしか存在しない。こうした場合、多いケースは「F」がエントリーという位置づけだ。

しかし、価格を見ると、最も安価なのは「S」の202万9500円。「F」は、それよりも高い205万4800円だ。

ちなみに、最も高いのが「X」となる。装備内容を見ると、最も内容が充実しているのが「X」で、「S」と「F」はほぼ同等で若干「F」が劣る。つまり、装備内容は「X」から「S」、そして「F」の順で低くなる。

つまり、「F」は装備が「貧弱」なのに、一番安いわけでもないという、不思議な設定になっている。

では、「F」は、いったい、何のためにあるのか? 

その答えは、「燃費スペック」にある。燃費性能を見ると、「X」と「S」は同じWLTCモード28.4km/Lなのに対して、「F」は29.5km/Lとひとつだけ数値が良いのだ。古いJC 08モードでいえば、他グレードが34.8km/Lに対して、「F」だけが38.2km/Lと良い。

いわゆる「F」は「燃費スペシャル」という燃費スペックに特化した特別なグレードなのだ。

優れた数値を出すために軽量化

3つあるグレードのうち、「F」の燃費スペックだけが飛びぬけて良いのは、車両重量が他よりも30kgも軽いのが理由だ。

装備の簡素化だけでなく、燃料タンクも他より4L小さい。この「F」グレードがあるおかげで、「新型ノートの燃費性能は~」と紹介されるときには、その一番良い数字が使われることになる。正直、良心的とはいえない手法だが、実のところ他の自動車メーカーも使っている。日本の自動車メーカーの悪しき伝統だ。

日産ノート F
日産ノート F

ちなみにノートのライバルとなる、トヨタアクアも全グレードの燃費性能が同じではない。やはり1グレードだけ重量が軽く燃費性能に優れる「L」というグレードが用意されている。

こちらの燃費性能はWLTCモードで29.8km/L。また、燃費性能の良さで売る、トヨタのプリウスも同様だ。こちらもタンクを小さく車両を軽くして燃費性能を高めた「E」というグレードが存在する。

こうした特殊なグレードは、たしかに燃費性能には優れているかもしれないが、日常ユースでは、走行距離が相当に大きく伸びなければ、なかなか燃料費の安さが実感できるほどのものではない。

それでいて、装備類が簡素だし、燃料タンクが小さいというのは日常の利便性にも悪影響がある。ユーザー・メリットは少なく、実際に数多く売れるグレードではないのだ。

記事に関わった人々

  • 鈴木ケンイチ

    Kenichi Suzuki

    1966年生まれ。中学時代は自転車、学生時代はオートバイにのめり込み、アルバイトはバイク便。一般誌/音楽誌でライターになった後も、やはり乗り物好きの本性は変わらず、気づけば自動車関連の仕事が中心に。30代はサーキット走行にのめり込み、ワンメイクレースにも参戦。愛車はマツダ・ロードスター。今の趣味はロードバイクと楽器演奏(ベース)。

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