【難解か否や?】フランスの高級車とは EVまで揃った「DS」の今 イッキ乗りしてみた

公開 : 2021.01.31 19:45  更新 : 2021.10.09 23:31

DSは、“今どきのフランス人”のための高級車として、歩み始めました。現行3モデルに触れると、他のプレミアム・ブランドには出せない魅力を見つけられます。

このクルマ、「DSっていいます」

text:Kazuhiro Nanyo(南陽一浩)
photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)

それは試乗会場のホテルの車寄せでDS 3クロスバックEテンスを撮っていた時のこと。

後ろから、とあるドイツ製2シーター・スポーツカーに乗ったマダムが声をかけてきた。言っちゃ悪いが、使いこなしていない高性能に退屈が乗せられている、そんな雰囲気の。

DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)
DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)    池之平昌信

「すいませ~ん、そのクルマ、何てブランドのですか? ヒュン○イ?」

すでにDS 3クロスバックのICE版の方に好印象で乗り終え、脳内パリ状態だったため(筆者はパリに10年以上住んでいた)、フランスで赤の他人がおちょくってきた時の感覚で、小意地の悪い答えが反射的に口をつきかけた。

「もちろんそう見える方には、そういうものなんじゃないですか」

マウントとりたいのかクルマに興味あるのか。でもマダムが美人なら、尻尾ふって視線ガチで歩み寄って

「何なら、もしお試しになりたければ、お伴しますが?」
と、にっこりキーを差し出す。

そんな流れがフランス的な肉食思考ながら、生憎ここは横浜で、クルマは借りもので、試乗会の真っ最中。

ここまでコンマ数秒の後、コンプライアンスたっぷり目に現実にはこう答えた。

「いえ、DSっていいます」
「どこの国のですか?」
「フランスです」
「そうですか、お邪魔しました~」

秘せずは花なるべからず、そんなクルマ

かくしてマダムはさくっと走り去った。

おそらく自分のセンスのリトマス試験紙として、アジアかハワイ便の機内で見たCM辺りの記憶から、酸っぱめの「ヒュン○イ」が挙がったのだろう。

DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)
DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)    池之平昌信

「フランス」と聞いて中和されたかのような彼女の笑みは、マスクの上からでも見てとれた。

とまぁ前置きが長くなったが、DSのプロダクトとブランド認知度が順調であることが分かった。

というのも、フランスの高級またはラグジュアリー・ブランドは、「道ですれ違う誰もが気づいてふり返る」ものではなく、「知る人ぞ知る」ものなのだ。

「それってどこの?」と人に聞かれる程度に。「秘すれば花」というヤツだ。

HとかLVが、高級だから高級鞄に群がる群衆を煙たそうにするのもそういうことで、いずれ実車のDS 3クロスバックEテンス、とくに白内装には、気づく人なら気づくオーラが備わっていることが確認できた。

ギンギンキラキラと対極 地味ハデの正体

オールラインナップ試乗会とはいえ、まだ3と7のふた型で、Eテンスを加えてようやく3モデルになったDS。

とりあえず「フランスもの」「パリもの」の運命で、お洒落というステレオタイプに括られ、ハイファッションだがクセ強めのデザインでキラキラしたクルマのように評されてきた嫌いがある。

DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)
DS 3クロスバックEテンス・グランシック(534万円:EV/136ps/リヴォリ内装)    池之平昌信

でも今やドメスティックな軽自動車やミニバンの方が、よほどアクの強さでもクロームの面積でも優っているのは明らかだ。

それにハッチバックのDS 3の頃から用いているシャークフィンの意匠は、国産車にパクられまくっている。そういうオリジナリティの無さを流通台数で飽和してうやむやにされていることに、気づかれないだけで。

手始めにDS 3クロスバックの外観だが、そのクローム使いはマトリックスLEDライト周りやポップアップのドアハンドルなど、インテリジェント制御のテクノロジーが用いられ目線を向かわせたいポイントに限られる。

逆にいえば、視線を集めなくていい部分を敢えて光らせ、目立とうとするロジックではない。フロントグリルのクロームも、格子ひとつひとつの内側に回り込んでいて、光を拾えば光る程度で、中央のロゴを際立たせる脇役使いでしかない。

ちなみに都合上、「ロゴ」といったが、DとSのアルファベットを組み合わせた意匠は「モノグラム」と呼ぶ方が適切だ。動物などを用いた商標よりクラシックで署名性が高く、旧くは王侯貴族や聖職者が手紙の封蝋に押したような、そんな用途を想像されたし。

それがシトロエンのダブル・シェヴロンという、インダストリアルな意匠から派生して、現代的なモノグラムになったことに、進歩と遊びがある訳だ。

記事に関わった人々

  • 南陽一浩

    Kazuhiro Nanyo

    1971年生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。ネコ・パブリッシングを経てフリーに。2001年渡仏。ランス・シャンパーニュ・アルデンヌ大学で修士号取得。2005年パリに移る。おもに自動車やファッション/旅や食/美術関連で日仏独の雑誌に寄稿。2台のルノー5と505、エグザンティア等を乗り継ぎ、2014年に帰国。愛車はC5世代のA6。AJAJ会員。

関連テーマ

おすすめ記事

 

人気記事