【常に変化を受け入れる】アラン・マクニッシュ ドライバーからチーム代表へ アウディ・フォーミュラEのボスに訊く
公開 : 2021.04.25 08:05 更新 : 2021.07.12 18:38
アウディのフォーミュラEチームを率いるアラン・マクニッシュにインタビュー。経験豊富な彼は何を語るのか。
スポーツカーからEVレースの世界へ
2013年、アラン・マクニッシュは現役ドライバーとしての最後のシーズンに、ついに念願のFIA世界選手権を獲得した。長年のパートナーであり友人でもあるトム・クリステンセン、フランス人のロイック・デュバルとともに世界耐久選手権(WEC)を制し、世界最高のスポーツカー・レーサーとしての長く多彩なキャリアを締めくくった。
それから8年経った今、ル・マン24時間レースで3度の優勝を経験しているマクニッシュは、アウディのフォーミュラEのチーム代表として世界の頂点を目指している。
2012年に設立されたフォーミュラEは、シーズン7となる2020年からFIA主催の世界選手権として開催されることになった。51歳のスコットランド人であるマクニッシュは、アプトが運営するアウディチームで2017/2018年にタイトルを獲得し、世界選手権となる前からフォーミュラEでの成功を味わっている。
「毎年、成功したいと思っているのは確かですが、自分の最後のシーズンだと思うと余計に集中できます。そのためにエネルギーが高まっているのは間違いありません。最後のレースは一度しかありませんからね」
アウディは今シーズン限りで同シリーズからの撤退を表明している。この決定が明らかになったのは昨年12月のことで、ちょうどスペインのバレンシアでプレシーズンテストの準備をしているときだった。その2日後には、BMWが同じく今シーズン限りでの撤退を発表し、フォーミュラEにとっては2発目の重いボディブローとなってしまった。
「もちろん、アウディの撤退は知っていましたが、BMWについては知りませんでした」とマクニッシュは言う。
「これはモータースポーツ戦略の再構成であり、自分たちの現在地と今後の方向性を高いレベルで検討した結果です」
アウディ最後のシーズン
アウディは、少なくとも来シーズン末まで、カスタマーチームであるエンビジョン・ヴァージンのサポートを継続する。
また、2022年のダカール・ラリーにおいて、電動SUVのeトロンをベースにした新型オフローダーを投入することになる。そして2023年には、古巣であるスポーツカー耐久レースの世界に戻り、新ルールのル・マン・デイトナ・ハイブリッド(LMDh)に対応したマシンを投入する。
BMWについては、今後のモータースポーツの計画は現在のところ謎に包まれている。
マクニッシュは、次のように語っている。
「アウディは常に、参加しているチャンピオンシップでは自分たちの技術でゲームをリードしたいと考えています。アウディはフォーミュラEに参戦し、1シーズンを戦い抜いた後、eトロンを市場に投入し、販売するまでに至りました。未来に向けてどこまで進んでいるかが重要です」
フォーミュラEの現在と未来の課題についての彼の見解は、アウディの撤退についてのさらなる洞察を与えてくれる。
「どのメーカーも、(2022/2023年シーズンから導入予定の)新しい第3世代のレギュレーションについてはそれぞれ意見を持っています」
「フォーミュラEには、克服すべきスピードバンプがあります。成長を維持し、すべてのチームに投資効果があることを証明しなければなりません。これが今後の大きな課題です。フォーミュラEは、環境面だけでなく、経済面でも持続可能なメッセージを発信していかなければなりません。そのために、コスト上限が設けられています」
レーシングドライバーからチーム代表へとスムーズに移行したことからもわかるように、マクニッシュは常に変化を受け入れてきた。彼は代表としての責任をどう受け止めているのだろうか?
「プレッシャーは気になりません。ドライバーの時よりも多いとは言いませんが、その範囲は広いですね。トロフィーを手にすると、ノイベルグ(アウディ・スポーツの拠点)のみんなをとても誇りに思います。それは正直なところ、わたしにとっては不思議な感覚でした。ドライバーの頃、わたしはチームに誇りを持っていましたが、それ以上に自分のやったことに対して誇りを感じました。ドライバーとしてバイザー越しに覗く景色は狭いですからね」
そして今、彼の目はフォーミュラEの優勝に向けられている。終わりは近いが、まだその時ではない。eトロンFE07に搭載された自社製新型パワートレインは、アウディの誰もが、そしてとりわけドライバーの誰もが、ペダルから足を離さないことを明確に示している。