【走り抜ける真紅なポルシェ】ポルシェ911 カレラRS 3.8と928 GTS モデルラインの頂点 前編
公開 : 2021.05.09 07:05
ポルシェ928の最後を彩ったGTS。入れ替わるように登場した、911 カレラRS 3.8。モデルラインの頂点を飾った2台を、英国編集部がご紹介します。
モデルラインの頂点を飾ったGTSとRS 3.8
細部を見ているだけでは、大切な全体像を把握できない。細部を理解しなければ、全体の理解が難しいこともある。15倍近い価格差にも。
一見すると、今回ご紹介する2台のポルシェは、ボンネットのエンブレム以上の類似性がある。ティアドロップ形状のカップ・ドアミラーに、ガーズレッドの眩しい塗装も同じ。無類な雰囲気を漂わせる点でも共通する。
1台は、911に代わるポルシェとして生み出された、フロントエンジン・リアドライブのグランドツアラー。928としては最後のバージョンとなるGTSで、英国の専門店、ヘアピンカンパニー社が7万ポンド(1050万円)で売りに出している。
もう一台は、インディカーの元チャンピオン、ダリオ・フランキッティがオーナーだった964型の911。同じ専門店が扱い、価格は113万ポンド(1億6950万円)に昇る。
大きな価格差だが、どちらもモデルラインの頂点を飾った。928を探している人なら、最後のGTSは羨望の眼差しを向けるクルマだし、空冷の911を探す人にとっては、964のカレラRS 3.8は同等以上の存在といえる。
同時期に誕生した2台だから、1990年代初頭のショールームには一緒に並んでいた可能性もある。非常に希少なモデルでもあり、所有できる人が限られていたことは確かだ。
RS 3.8の膨らんだフェンダーラインと巨大なリアウイングに目を向けなければ、964型911のボディはタイトで、デザインはデリケート。基礎をなす造形は、1963年のフランクフルト・モーターショーで発表されたポルシェ901にまでさかのぼれる。
17年進化を止めなかったFRの928
928が誕生したのは1977年のジュネーブ・モーターショー。911より、サイズはひと回り大きい。
ポルシェは17年間のモデルライフを通じて、928の進化を止めなかった。フロントエンジンのクルマが911の後継にはならないとポルシェは途中で気づいていたが、変更は続けられた。
1986年の秋に928はS4へマイナーチェンジ。アルミニウム製のV8エンジンは5.0Lの排気量と、ツインカム4バルブヘッドを獲得する。ボディにも、滑らかなバンパーと新しいヘッドライトが与えられた。
北米や欧州市場向けとして、1987年に100kg軽量で走りを磨いた928クラブスポーツが登場。1989年の928 GTを経て、1992年に最終進化形のGTSが発表された。1995年に製造終了となるまでの3年間、928を守った唯一のグレードだった。
S4とGTを見分けるのは難しいが、GTSの違いはわかりやすい。ブリスター状に膨らんだフェンダーラインを眺めながら、ドアハンドルを掴む。自然と気持ちが高ぶる。
長いドアを引き開いて、グレーな車内に身体を収める。全方向で視界に優れることに驚いた。ダッシュボードの奥行きが深く、ドアパネルはモダンだ。
自然吸気のV8は簡単に目を覚まし、やる気に溢れるアイドリングで落ち着く。サウンドは抑えられているが、マニアが仕上げたホットロッドのように、ブリッピングでボディが揺れる。
GTSの前評判を聞いているなら、クラッチペダルを蹴飛ばすのに100kgの力が必要だと想像するかもしれない。しかし、コンパクトカー並みに軽いことは新たな発見だった。