【996+997+991】ポルシェ911 GT3 3世代比較試乗 前世代の集大成を再確認 後編
公開 : 2021.05.16 09:45 更新 : 2021.05.17 15:07
各世代の911の集大成といえるGT3。ドライバーズカーとしての成長を確かめるべく、英国編集部が3世代を乗り比べしました。
991型にはない純粋な一体感
991型GT3の感動が残ったまま、後期の997型GT3に乗り換える。まるで別世界のように感じられた。座ってすぐに、明らかに劣ることが伝わってくる。
40psの差ほどではないにしろ、はっきりと遅い。997型のサウンドも素晴らしいが、全開時の991型が放つ興奮度には及ばない。
997型はグリップ力も低い。リミットを超えると、一気にコーナーの頂点を追えなくなる。991型のダンパーの良さにも気付く。997型の乗り心地は忙しないが、991型は路面の凹凸を吸収し、いつまでも乗っていたくなる。
しかし、997型にも特長はある。991型にはない純粋な一体感だ。991型が採用した電動パワーステアリングでは叶えられない路面からの感触を、油圧パワーステアリングは手のひらに伝えてくれる。
991型のパドルシフトも素晴らしいが、左足と左手の仕事は、かなり奪われたまま。997型に搭載される6速MT以上に素晴らしいトランスミッションは、世界中探してもないだろう。
シャシーバランスは完全ではなく、もう少し乗り心地は穏やかでも良い。それでも、991型とは違う方法で操る必要性が、強い一体感を生んでいる。不思議なことに997型の備えるマイナスは、ドライビング体験としてはプラスに働いているようだ。
ではGT3の初代、996型は過去のクルマなのだろうか。997型はドライバーへ伝える感覚で、パワーで勝る991型へ伍することができた。パワーやグリップで届かない996型は、負けないほどの楽しさを与えてくれるのか。
今日イチの驚きを与えてくれた996型
蓋を開けてみれば、今日イチの驚きを与えてくれたのは996型だった。英国の中古車ディーラーからお借りした今回の996型GT3は、見事な状態の1台。個体によって、得られる体験に差はあるはずだが。
誕生から随分時間の経つ996型は、舗装が平滑ではない郊外の道を飛ばしてもキシミ音や振動音を発しないことに気付く。ほぼ新車状態の、991型以上に静かだ。
996型はこれまでのポルシェ911の中で、最もコスト制限が強かったことはご存知だろう。だが、真新しいロールス・ロイスのようにしっかりしている。
チャレンジングな道では、997型と同じくらい楽しいことにも唸らされた。パワーやグリップの差は、さほど重要な要素ではない。コーナーでは引き締められたダンパーを活用し、アクセルペダルの操作で旋回時の姿勢を簡単に調整できる。
5000rpm以下では眠そうなフラット6が、それ以上に回すと突然エネルギッシュに変わる性格も好きだ。電子制御のセーフティネットがないことでの、スリルと背中合わせな感覚も筆者好み。
996型のGT3は、ピュアなアナログ・マシン。完全にドライバーがコントロールできる。GT3のようなクルマなら、それでも構わないと思う。
一方、996型で決定的に不足しているのが、近づきやすいマナー。たとえGT3でも、それなりの快適性は必要だと思う。乗る場面を選ぶおもちゃではなく、毎日楽しめるクルマになる。