【ボクサーとは別物?】対向ピストンエンジン 米国でテスト中 高効率の2ストローク
公開 : 2021.05.11 06:05
安価でシンプル、高効率の対向ピストン機関を米国の会社が自動車向けにテスト中。歴史ある技術の再発掘です。
1気筒につき2ピストン
年老いた犬に新しい技を教えることは不可能だと思われがちだ。しかし、米国のAchates Power社は、初期の内燃機関のコンセプトを改良した「オポーズド・ピストン・エンジン(OPE)」を開発した。いわゆる対向ピストンエンジンである。
OPEは、2本のクランクシャフトをギアで連結し、1気筒につき2つのピストンを配置して対向させる。2つのピストンの間に燃料が噴射され、着火することでピストンが押し出され、クランクシャフトが駆動される。水平対向エンジンとは異なり、1つの気筒内に2つのピストンが備わっている(燃焼室を共有している)点が特徴だ。
Achates社のOPEには、ディーゼルとガソリンの2種類があり、日常的な乗用車から軍用車両まで幅広く対応しているという。
現在、フォードのピックアップトラックF-150でテスト中のガソリン仕様は、2.7L 3気筒で最高出力274ps、最大トルク66.2kg-mを発揮する。ガソリンを燃料としているが、ガソリン圧縮着火式エンジン(GCI)が採用されている。つまり、燃料と空気を十分に圧縮して熱を発生させることで着火する。従来のディーゼルエンジンと同様、スパークプラグや電気的な点火システムはない。燃料はピストンの上ではなく、2つのピストンの間に直接噴射される。
空気はシリンダー内のポートから入り、排気は同じように別のポートから出る、典型的な2ストロークエンジンの方式である。空気は、スーパーチャージャーと可変容量ターボチャージャーを組み合わせてシリンダーに供給される。
このシステムは、シリンダー内に空気を充填するだけでなく、排気ガスを精密に制御して排出する。エンジンがガスを出し入れするためのポンプのようには機能しないため、通常の燃焼エンジンで発生するパワーと効率を損なうポンプ損失を低減する。
エコで低コストな仕組み
GCIのおかげで低排出ガスを実現するほか、シリンダーヘッドやバルブトレインを持たないため従来のエンジンよりもシンプルで安価に製造できるというメリットがある。
シリンダーヘッドがないということは、エンジンの体積に対して表面積が小さくなり、熱伝導率が低下するため、燃焼エネルギーをより多く運動エネルギーに変換することができる(熱効率が高い)ということだ。実際にテストでは、GCI仕様のエンジンの効率は、ディーゼルの低CO2レベルに近づいたという。
2ストロークエンジンの潤滑は、ガソリンにオイルを混ぜて行われる。現代の基準では、これは「トータルロス」と呼ばれる排ガスの悪夢だが、Achates社のOPEは他のエンジンと同様に個別に潤滑されているので、問題はない。2サイクルの良さは、4サイクルに比べてはるかにエネルギー密度が高いことにある。なぜなら、ピストンが2回(4回ではなく2回)動くことで、同じ時間でより多くの仕事をこなすことができるからだ。
OPEの歴史は古く、1900年頃から船や戦車、鉄道機関車などに搭載されてきた。Achates社のOPEは、従来のガソリンやディーゼルエンジンに比べて30〜50%効率が良く、同じ働きをするスーパーチャージャー付きV6に比べて10%安く作れるとされている。
2024年には、最高出力1000psのディーゼルエンジン、アドバンスト・コンバット・エンジン(ACE)の生産開始を予定している。