【架空のヒロンデルを実写に】ボルボP1800とC70、ジャガーXJ-S、インターセプターIII 前編
公開 : 2021.05.29 07:05
英国人作家のミステリー作品、セイント・シリーズに登場する架空のクルマがヒロンデル。実写版で選ばれた4台を、英国編集部が振り返ります。
もくじ
ー主人公のセイントが運転したヒロンデル
ードラマとともに人気を集めたボルボP1800
ー2代目ヒロンデルは白いジャガーXJ-S
ーTVドラマのファンが大切に乗るジャガー
ーEタイプの後継ではなくグランドツアラー
主人公のセイントが運転したヒロンデル
推理作家で映画脚本家のレスリー・チャータリスが書き残した作品には、ヒロンデルという架空のクルマが登場する。主人公のサイモン・テンプラー、通称「セイント」が、犯人との戦いで運転する8気筒のスピードスターだ。
「セイントは、デビルを肩に乗せて運転した。ヒロンデルはその雰囲気を感じ取ったようだった」。と、チャータリスは物語に書いている。これまで何度か映画やTVドラマとして映像化されているが、実写版ヒロンデルは一般的な量産車が選ばれてきた。
架空のヒロンデルに一番近かったクルマはどれだろう。今回は、一風変わった切り口で4台を振り返ってみたい。初めはボルボP1800から。
独自のヒロンデル制作は、予算の範囲を超えるほど大掛かりで非現実的。映像ディレクターのロバート・ベイカーとモンティ・バーマンの2人は、英国のTVシリーズ、「ザ・セイント」撮影に向けて複数のベース車両を候補に挙げた。
英国のエルスツリー・フィルムスタジオなら、コンバーチブルなら制作できた。そこでベイカーとバーマンは、ジャガーMk Xをベースとして選ぶが、ジャガーの経営陣は難色を示した。広報車両の提供はおろか、販売自体を拒否したらしい。
そんなある時、別のスタッフがロンドンのショールームでボルボP1800を目に留める。それをきっかけに、スタジオへやって来たのが71 DXCのナンバーを付けた1台のP1800だった。
ドラマとともに人気を集めたボルボP1800
ボルボP1800が発表されたのは、1960年のブリュッセル・モーターショー。AUTOCARでは、「悪癖と呼べる部分がまったくなく、突出した仕上がり」。だと評価している。悪に立ち向かうセイントのクルマとして、ピッタリだ。
ボルボは1958年にP1800の販売を開始する計画で、当初は英国のジェンセンが組み立てを請け負った。右ハンドル車の生産は1962年3月に始まっている。
TVドラマ「ザ・セイント」の初エピソードは、1962年10月4日に放映。エキゾチックなボディのヒロンデル「ST 1号」は、英国の視聴者へ新鮮に写ったことは間違いない。錆びついたスタンダード・ヴァンガードが町中に並んでいたような時代だ。
洗練されたデザインのクーペは、多くのテレビ視聴者に上流な暮らしをわかりやすく表現した。P1800の評判を高めることにもつながったし、モデルカー・メーカーのコーギーからは初めて、TVドラマにちなんだミニカーが発売された。
1963年、ボルボは77 GYのナンバーを付けた別のP1800も提供。以降、テレビ番組には広報用車両や1800シリーズなど、多くのボルボが登場した。クルマたちはレギュラー・キャストと同じくらい、番組の重要な要素になっていた。
しかめっ面のイヴォール・ディーンや、バート・クウォーク、ポール・スタシーノといった俳優とともに、ボルボなしでエピソードは完結しないといってもいい。「ザ・セイント」の放映は1969年2月に終了している。