【羽ばたけないガルウイング】メルセデス・ベンツSLRマクラーレンとブリストル・ファイター 前編

公開 : 2021.07.03 07:05

21世紀が始まって間もない頃に誕生した、SLRマクラーレンとファイター。320km/h超の最高速へ挑戦した、2台のスーパーカーをご紹介します。

生産台数は意外と多い2000台以上

text:Martin Buckley(マーティン・バックリー)
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
写真上では、メルセデス・ベンツSLRマクラーレンを、筋肉質になったメルセデス・ベンツSLだと勘違いする読者もいるかもしれない。でも実物を目にすれば、そんなことはまずないと思う。

取材中、英国南部のソールズベリー郊外にあるガソリンスタンドで給油していたら、若者が駆け寄ってきた。その威風堂々とした姿に、居ても立ってもいられなかったのだろう。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2003〜2009年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2003〜2009年/欧州仕様)

SLRのガルウイングドアを上に開き、幅広く高い位置のサイドシルを滑るように降りる。かっこ悪くならないように。スーパーセレブのパリス・ヒルトンは、大勢のカメラマンの前でフラッシュを浴びながらスマートに降りたものだ。

若者へは、まず先にわたしがオーナーではないことを説明した。もとサッカー選手には間違われないと思うけれど。続けざまの質問に、最高速度が333km/hなことと、クルマへかけられた保険代が23万5000ポンド(3619万円)だと答えた。

これらの数字は、近年ではもはや大きく驚く数字ではない。恐らく最も関心を引くのは、何台作られたか、だろう。200台か300台くらいを想像すると思う。フロントミッドシップのモンスターが2000台以上も製造されたと知り、筆者はショックを受けた。

こんなスーパーマシンの購入者は、自動車メディアの評価などは気にしない。実際、あまり良い評価は得られなかった。ステアリングやブレーキの質感だけでなく、マクラーレンF1に並ぶ能力の持ち主ではないという事実に、多くが納得できなかったのだ。

メルセデス・ベンツの技術の粋を結集

メルセデス・ベンツSLRマクラーレンはスーパーカーと呼ぶべきか、ハイパーカーと呼ぶべきか。スーパー・グランドツアラーの方が良いのか。目立ちたがり屋のためのメルセデス・ベンツSLとは、皮肉過ぎるとは思う。

どんな人でも、巨大なボディにガルウイングドアの付いた2シータークーペに乗れば、ひっそり移動することは難しい。サイド排気がさらに主張を強めるが、見た目だけでなく、アンダーボディをフラットに保つという機能もあった。

メルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2003〜2009年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツSLRマクラーレン(2003〜2009年/欧州仕様)

真横から見ると、ノーズからフロントガラス上端の辺りまでで、ボディの7割近い長さを占めている。エンジンは、フロントタイヤのかなり後ろ側。マーベルの漫画に出てくるスーパーヒーローでも、SLRほどのプロポーションを持つマシンは持っていない。

フェラーリがエンツォを生み出した時代に誕生したSLR。1955年の名車、メルセデス・ベンツ300 SLR ウーレンハウト ・クーペに触発され、2003年に発表された。マクラーレンF1と比較され、高い評価を得られなかったという影も併せ持つ。

SLRは、メルセデス・ベンツが約20年前に実現することができた、技術の粋を結集させている。採用された技術の中で、少なくとも37件は特許の出願を行っている。

どんなに踏んでも制動力が落ちにくい、フェード性に優れたセラミックブレーキや、カーボンファイバーを広範囲に用いた軽量化技術などは、間違いなく当時の最先端だった。SLRの車重は1768kg。現代のSLより約270kgも軽い。

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